不完全な魔女
ディルバはチェルミの瞳をみて、ハッとした。


(やっぱり嘘はついていない。だが、これ以上いろいろ尋ねるのはチェルミを追い詰めそうだ。)


「そうか。それなら20才まで勉強がんばって、すばらしいレディにならなきゃいけないな。」


「れでぃ?」


「賢くて、きれいで、みんなから愛される大人の女性だ。
君がこれから目指して生きていくんだ。」



「私がレディ・・・。で、レディって何をする人なの?」



「あら・・・。」



ディルバはあきれ顔をしながら、次の瞬間チェルミを抱きしめて大声を出して笑った。


「大丈夫、俺が教えてやる。俺は優秀な先生だからな。
おまえが20才になったら、故郷に胸を張って帰れるようにしてやる。

周りを見てごらん。ここは自然の花畑だ。
俺のお気に入りの場所。

色とりどりの花たちを見ていると、罪があることなんて忘れられないか?
もちろん、現実には罪人なのかもしれないが、ロミにもいったが、おまえは高校生だ。
やりなおすんだ。正しいことが何なのか勉強すればいいんだ。」


「はい。ありがとう・・・先生。
私、このお花畑を忘れない。

これからがんばろうなお花畑だもん!」


「よっしゃ、その意気な。
じゃ、俺につかまれ。家に帰るぞ。」



「どうして、先生につかまらないといけないの?
ここはどこ?」



「いいから俺にどんな感じでもいいから、つかまれって。
ああ、もういい。俺が抱く。」


「抱く!?・・・えっ。・・・あ、あの・・・先生・・・?
ぎゃああああああーーーー!!!」



ディルバの胸にしがみついて、声に気付いてあたりを見回すと、見たことのあるリビングルームだった。



「ここは、お隣の・・・。」



「まあ、お帰りなさい。2人で瞬間移動帰りなんて、楽しんでたのね。」


「瞬間移動・・・帰り・・・!?」



「いや、お婆さま・・・これにはいろいろとわけがありまして。」


「いいのよ、チェルミはわけありっ子だものね。
お互い様でいいじゃないの。」



「お互い様って、先生もわけありなの?
瞬間移動って・・・」



「じつは俺はエスパーなんだ。みんなに内緒な。」


「エスパーって何?」



「エスパーを知らない?・・・そうか、チェルミはエスパーを知らないんだ。
ほんとに君は、かわいい子どもだな。」



「ぶぅ!ロミが言ってました。知らないのはバカじゃないって。」


「ごめんごめん、そうだ、知らないのはバカじゃない。
エスパーつまり、超能力者。

俺が連れて行った花畑は何百キロメートルも離れた山の麓にある花畑だったんだ。

普通の人間が交通機関を使っていけば、飛行機を乗り継いでいくところだが、僕は君を連れて瞬間移動という力を使った。

一瞬のうちに別の土地へ移動したんだ。」



「魔法みたい・・・。」



「うん、魔法のような力だ。だけどね、この力は人間はほとんど持ってない力なんだ。
もし、他の人間に俺の力のことがわかってしまったら、俺はこの世界では殺されてしまう。

これじゃ、君の世界の話と似てしまうね。
だから、内緒にしておいてほしい。」



「わかりました。秘密を共有しちゃったってことだよね。」


「じゃ、秘密をわかちあったところで、国語から勉強しようか。
鞄を開けて、ノートを出しなさい。

教材と課題はもう用意してあるから、プリントをやっていく要領でやるぞ。」



「うわぁ・・・そんなもう!鬼だよぉ・・・先生。」


「これが教師の愛のムチだ。レディ目指して精進しろ!」


「うわぁーーーん!」
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