黒イ世界
これなら逃げられる、と思った瞬間−

手首を捕まれ、口を手で抑えられた。

恐ろしく冷たい手だった。あまりの冷たさに、池に落ちたかのように私の全身が凍りついた。


感覚が妙にリアルだった。いくらもがいてみても逃げ出せない。


このまま死んでしまうのかと、幼いながらに考えた。










「プレゼントだよ。」


男の人の声だった。
まるでおかしさを隠しているかのように私に話しかけた。


勇気を出して後ろを振り返った。だが、口が塞がれているために、目で後ろを見ることしかできなかった。


にたぁっ、と笑う真っ赤な口が見えた。
その瞬間、背中を引き千切られるような痛みを感じて悲鳴をあげた。

私はそこで目が覚めた。

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