小さな気持ち
仕方なく編み物だけを持って庭に行くと焼き菓子の香ばしい香りが鼻をついた。
「……お嬢様・・・?」
心配そうに近付く執事に笑顔で応える。
本当は今にでも倒れてしまいそうなのだが、この執事の前ではそういう弱いところを見せたくない。
「今日のおやつはなぁに?」
明るい声で尋ねると訝しみながらも椅子を引く林檎。
「お嬢様のお好きな、オレンジピュレを加えたクッキーです。紅茶はアールグレイを」
編み物を隠すように座りテーブルの中央に置かれた小瓶を見遣る。
「嗚呼、綺麗でしょうこの小瓶。……この中に花を活けたら素敵だと思いませんか?」
ティーカップに紅茶を注ぎ席に着く林檎。やがて彼女はおもむろに口を開いた。
「あの」
「林檎」
互いの声が重なり、沈黙が訪れる。促され先に口を開いたのは檸檬だった。
「……あのね? これ、林檎にあげる。最近寒いから、寝る時にでも使って・・・?」
おずおずと差し出したのは先程作ったストールだった。席を立ち林檎の肩に掛けると、彼女は驚いた顔で檸檬を見る。
「そんな顔しないで、……いつも頑張ってくれてる林檎に、ありがとうの気持ちで作ったんだから」
柔らかく微笑むと執事は気まずそうに俯いた。