小さな気持ち
のどかな陽射しの当たる庭園をふたりは歩いていた。
この庭園は両親がまだ生きている時、生まれる子どもは感受性の豊かな子に育って欲しいと願いを込めて庭師に作らせたものだと、以前林檎から聞いた。
「奥様も旦那様も、それはもう檸檬様の誕生を心待ちにしていらっしゃったのですよ」
父母のことを語る執事は何処となく誇らしそうに見える。
それとも、自分の仕えていた相手の娘だから、緊張しているのだろうか。
色とりどりの花が咲く庭園をふたりで歩く。
「……この庭園で、お茶をしたいね」
「では、本日のティーブレイクは此方で致しますか?」
頷き辺りを見回す。するとそよ風が髪のリボンを揺らした。
「お嬢様。……そのリボン、よくお似合いですよ」
何年か前の誕生日、林檎から贈られたリボンはあつらえたように檸檬の髪質にぴったりだった。
「お気に入りのリボンなんだ。……私の、いちばんの宝物かも・・・」
そっと触れ、恥ずかしそうに微笑む姿は霞のように儚く林檎は胸が苦しくなった。