フラグ
6st.flag~第六のフラグ
次の日の朝
俺は、佐知子の事と田中の事を考えてあまり寝れなかった。
朝早めに下に降りると佐知子は、もう起きていた。
佐知子は、昨夜寝れたのか気になったが聞かなかった。
しばらくして舞が起きて来たが、健太と花はまだテントから出て来ない。
そうこうしていると、田中姉妹もやって来たので朝ご飯を真佐雄さんがバーベキューコンロで作ってくれるみたいだった。
バーベキューコンロの網を鉄板に変えて焼きそばを作り出した。
少しずつまた昨夜のように盛り上がって来たのと、焼きそばを作る音でテントで寝ていた健太と花が起きて来た。
母親と知子は、俺が下に降りて来た時には起きていたが寝てないんだろうか?と考えていると焼きそばが出来たみたいだ。
佐知子が、みんなの分を紙皿に分けて口々に「いただきまーす」と言い全員食べ出した。
佐知子「お父さん、昼は何作るん?」
真佐雄「何作ろうかな?何でもだいたいは作れるけど、何か作って欲しい物あるか?」
佐知子「うーん…バーベキューって言うたら後何があるんやろ?」
健太「バーベキュー言うたら、後はカレーとか定番ちゃう?」
真佐雄「バーベキューっぽくないのでもだいたいは作れるぞ」
知子「そら伊達に、しょっちゅう会社でキャンプばっか行ってないんやもんね、あはは」
真佐雄「材料があればやけどな」
佐知子「美幸と茜ちゃんは、何か食べたい物ある?」
田中「私は別にないけど、茜何かある?」
茜「じゃあ、お好み焼き!」
真佐雄「おっと!それはバーベキューでは新しいな!お好みにするか」
そういう事で、お好み焼きに決まった。
肉も昨日の残りと家にある小麦粉と卵があるから材料もある。
昼まで別にやることもなかったので、みんなとしゃべっていた。
昨夜、佐知子とあんな事があったが今日もいつもと変わらない佐知子で、なんか救われた気分だった。
俺にとっては、今まで通りの関係が崩れる事が不安だったからだ。
佐知子の心の中は、今まで通りとはいかないだろうが、俺には今まで通りにみんなと付き合っていきたかったからだ。
いつまでも、そんな事は言ってられないかもしれない、だが自分の気持ちが分からないまま適当な事は俺には出来ない。
昼ご飯は、バーベキューコンロで真佐雄さん特製お好み焼きを、みんなで食べてたり、みんなでスケボーで遊んだりして夜になり家でのキャンプは終わった。
田中姉妹を、みんなで家まで送って俺の家に戻り解散となった。
その間に真佐雄さんはキャンプ道具を片付け終わって、佐知子の家族も帰って行った。
その日の夜は、寝不足と疲れですぐに夢の中に入った。
「大人になったら結婚しようや!」
また、この夢だ。
「ええよ!大人になったらぜったいしよ!」
目が覚めた、やっぱりいつもと同じ夢だった。
「佐知子…」
俺は、佐知子に想いを伝えられた。
そして俺は、その想いに応えられなかった。
自分の気持ちが自分で分からない腹立たしさと、佐知子への申し訳なさ。
自分で自分に呆れてきた。
家でのキャンプの2日後、佐知子が昼ご飯をいつものように作りに来た時に「明後日、花火大会行かへん?」と言って来た。
舞「行きたい!」
俺「ええな、ほんならみんなに連絡するわ」
佐知子「もう夏休みも終わりやしなぁ、今年の夏休みは色々やったな」
舞「みんなでいっぱい遊んだやんね」
俺は、何も言えなかった。
色々やった、ではなくて色々あった。
その中にやはりあの家でやったバーベキューの夜の事が、俺には衝撃的な出来事だったからだ。
何も言わず家の電話で、みんなに連絡を入れた。
全員参加で花火大会に行く事になった。
佐知子はあの日の夜何も無かったように接している。
俺だけが変に意識している。
花火大会に行く当日も、いつものようにただワクワクというわけでは無かった。
田中姉妹以外と俺の家に集合して、駅で田中姉妹と合流して花火大会の場所まで電車で行った。
花火大会に行く電車の中でも、花火大会の最中も俺は上の空だったのかもしれない。
自分では楽しんでいるつもりだったんだが、常に考えていた。
というより、悩んでいると言った方がいいかもしれない。
ただ今は、いくら考えても悩んでも答えは出なかった。
花火が打ち上がり始まった、いつの間にか左隣に田中がいた。
打ち上げられる花火の轟音の中、耳元で「川上君、今日元気ないけどどうしたん?」と田中の声が聞こえた。
咄嗟に田中の方を見て「えっ?」と言った。
「何か考え事?」
「そう見える?」
「うん、何か悩んでる?」
「そんな事ないで今日腹の調子が悪いだけ、あははっ」
俺は嘘をついた。
そして、花火が打ち上がっている方を見た。
花火を見ているが、花火を見ているだけで頭に入って来ないから綺麗も何も無い。
ふと、また左隣にいる田中の方を 見た。
田中は、ずっと俺の方を見ていた。
「嘘つき…」
簡単に見抜かれてしまった。
ばつが悪かったのと、嘘じゃなくそうと思った俺は「ちょっと便所行って来るわ」と言って仮設トイレのある方に行った。
トイレの近くに、ベンチがあったのでベンチに座った。
ここで時間でも潰そうか…と思って膝に肘を乗せて座っていた。
目の前に人が立って視界を遮る。
見上げると、田中が見下ろす形で俺を見ていた。
「やっぱり嘘やったんやね…」
「あ…」
「川上君、嘘つくの下手やし…」
凄く悲しげに俺を見つめる。
全力でいつもの俺を装った。
「いや、ちょっとうんこ漏れてもうてな、あははっ」
「ウフフフフ、もうバレてるよ嘘」
「ごめん…」
「何悩んでるん?私で良かったら聞くけど…」
「ん…いや、大丈夫やから」
「大丈夫やったら悩まへんやろ?私には言えへん事?」
「どっちかと言うと、そんな感じ」
「私の事?」
「………」
「私、何か悪い事した?」
田中の目から涙が溢れ出した。
「ちょ、ちょっと田中」
俺は慌てた。
「私…川上君に色々良くしてもらって……川上君のおかげで…変われた…し……毎日楽しいし………」
「ちょっと田中、違うから!田中の事怒ってるわけやないから!なっ」
「ほんまに?」
「ほんまやて!」
「私…川上君に……感謝してるん…だから力になれる事があるんやったら言うて」
「わかった!わかったから涙拭いて」
まさか田中に泣かれると思わなかったから凄く焦った。
田中をベンチに座らせて、泣き止むのを待った。
「私、恩返しやないけど川上君が困ってるんやったら、今度は私が助けたい」
「待った!また泣くから、そういう話しは止めよう」
「ウフフ、ごめんね泣いちゃって」
「ええけど、いきなり泣くからびっくりしたわ」
「また迷惑かけたね…」
「大丈ー夫!全然迷惑ちゃうから!田中泣くから止めようって」
「ウフフフフフ、うんもう大丈夫やから」
「そりゃ良かった」
「ふぅー、でも良かった」
「何が?」
「私の事で川上君が怒ってると思ったから」
「いつも怒ってんのは田中やろ」
「怒ってないって、ウフフ」
田中も落ち着いたみたいだし一安心だ。
「悩み事、私には言えへん?」
「あぁ…とりあえずまた今度にしよ、今日は田中泣くからこの話しは終わりや」
「うん…」
花火も終わる頃だから、花火を見ていた場所に戻った。
戻ってすぐにメインの花火が打ち上がり花火大会は終わった。
帰りの電車で舞が「花火大会の途中どこ行ってたん?」と聞いてきたが「腹が痛くて便所行ってた」と言った。
健太「田中も、おらんようになってなかった?」
俺「ティッシュ持ってなかったから持って来てくれたんや」
俺は「健太のアホ余計な事言いよって」と思った。
健太「さすが女の子やな」
田中「う、うん、ティッシュくらいはいつも持ってるから」
と、何とか田中も話しを合わせてくれた。
駅に着いて、夜も遅くなるので早々に田中姉妹と別れて、佐知子を家に送って家に帰った。
その日の寝る前の布団の中で、また色々考えた。
何故か考える事がどんどん増えるなと思いながら、その日は眠りについた。
朝、目が覚めて下のリビングに行くと舞がソファーに座ってテレビを見ていた。
俺も舞の隣に座ってテレビ見たら、夏休みという事もあり恐い番組がやっていた。
「やっとお兄ちゃんが来てくれた!これ恐いねん」
「チャンネル変えたらええやん」
「いや、でも気になるやん」
「うわ!!」
「キャーーー!?」
「あははははっ」
「なんなん!?いきなり!」
「恐さが倍増するかな?と思ってな」
「もー!アホ!」
俺はソファーから立ち上がり「俺、パン食うけど舞は?」と言ってキッチンに行く。
「あ!舞もいる!」
朝食はだいたい我が家は食パンで済ませる。
いくら近いとは言え、佐知子にばかり負担をかけるわけにはいかない。
「舞、バターか?チーズか?」
「チーズ!」
トースターに食パンを入れ、ダイヤルを回して食パンが焼けるのを待つ。
「チンッ」
「舞、焼けたぞ」
「うん!もうちょっと!」
さて今日は何をしようか?と思いながら食パンを食べていると、電話が鳴り出した。
俺は鳴っている電話へ急いだ。
「はい、もしもし川上です」
「田中ですけど、川上君?」
「あぁ、田中か?おはようさん」
「うん、おはよう。川上君今日予定あるかな?」
「いや、別に特別なんもないで」
「じゃあ…えーと、会って話ししない?」
ここは、余計な話しはしない方がいい、舞が聞いてるかもしれないと思ったからだ。
「あぁ、分かった。ほな今から学校の正門前に行くから」
「う、うん、分かった」
「ほなまた後で」
「はい、また後で」
「ガチャ」
キッチンに戻り、食べかけの食パンを口にくわえて、用意をした。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「ちょっと田中が話しがあるんやって、行って来るわ」
「ふーん、いってらっしゃい」
「おぅ、行って来る」
中学校の正門前に着いた。
向こうに田中の人影が見えたから、田中の方に歩いて行くと、田中は気付いて走ってこっちに来た。
「走らんでええのに」
「川上君待った?」
「今、着いて田中が見えたからこっちに歩いて来ただけで待ってへんで」
「良かった」
「んで話しって?」
「んー…ここではちょっと」
「人少ない方がいい感じ?」
「うん…そうやね」
「んー、ほな前にみんなで行った池のある公園にでも行くか?」
「そうやね」
しばらく歩くが、ちょっと林になっているところとかは、人がは少ない。
「珍しいな、田中から電話かけてくるの」
「うん…凄く緊張したんやから」
「あははっ、そうなん?うちは、俺か舞しかほとんど居らんから緊張せんでええのに」
「それでも緊張するって」
「そりゃ緊張し過ぎやろ、あははっ」
「そんな事言うても、緊張しいやし」
「ほんで、話しって何?」
田中の顔色がパッと変わった。
「昨日の話しなんやけど、私にはやっぱり言えへんかな?」
「ここまで来たら、言ってもええけど、田中まで悩んでしまう事になるで」
「私は、いいよ。今の私があるのは川上君のおかげやもん」
「大袈裟やなぁ…」
「んーん…大袈裟やないん、私は今まで一人ぼっちやった…ずっと…」
「生まれてから、ずっと一人ぼっちなわけないやん、田中はたまたま一人ぼっちの時期が長かっただけやん」
「そんな事…分からへんやん…でも私、屋上で話しかけられて話す修行って言われて、こんなけ話せるようになったんは川上君のおかげやと思ってる」