フラグ
8st.flag~第八のフラグ


この日は、佐知子がこの先どう接して来るのかも分からない。



俺としては、今まで通りの付き合いをしていきたいが、こういう事はお互いの気持ちの問題だ。



舞に、佐知子とはこの先距離を取った付き合いになるのか、今まで通りの付き合いになるのかは、佐知子次第だから今はとりあえず様子を見ようと言った。



俺は田中との急な別れで、ある種の慣れなのか、それとも佐知子が居なくなってないからなのかは分からないが、田中が急に居なくなった時ほどは取り乱したりしなかった。



翌日、やっぱり佐知子は来なかった、舞は落ち込んでいたのが俺には辛かったがどうしようもない。



その日の夕食は、俺がオムライスを作った。



佐知子が夕食を作りに毎日来てくれていた事は、本当にありがたかった。



俺が作った夕食を、舞と二人で食べる。



全く会話が無い、気まずい雰囲気のまま夕食を食べ終わった。



夕食を食べ終わった頃、健太から電話がかかってきて明日、花と二人で家に行くからと言ってきた。



次の日、朝から健太と花はやって来た。



舞は、自分の部屋から出て来なかった。


健太「今日来たんは、隆にちょっと話しがあってな」



俺は、「ドキッ」っとした、佐知子の事だと思った。



俺「なんや?話しって」



健太はやけにニヤニヤして気持ち悪かった。



健太「一緒に中免取りに行かへんか?」


俺「中免かぁ、俺はええけど母さんに聞いてからやな」


花「今すぐやなくて、春休みくらいに取りに行こう思ってんねん」



中免とは、「中型免許」400㏄のバイクまで乗れる免許だ。


健太「ほんでやなお前、金どれくらい持ってる?」


俺「今、30万くらいはあるかな?」


花「結構持ってんねやな」


健太「まぁ、どっちにしても中免取ってバイク買うってなったら足りひんやろ?」


俺「そうやな」


健太「ほんで、俺の叔父さんが隣町でスーパーしててな、そこで三人くらいバイトせぇへんか?って言うてんねん」


花「俺もバイク買うのに、そのバイト行くんやけど隆も行かへんか?」



俺は、佐知子の事でウジウジしてした事、そして何かに夢中になる事で忘れられるかもしれない、そう考えて二つ返事で「行く」と言った。


健太「俺の計画を発表する!」


俺「計画?」


健太「俺は、明日からスーパーで冬休みはバイトする、元旦は休みやけど10日フルでバイトしたら約9万くらいは稼げる、冬休み終わっても平日の夜7時から3時間バイトと日曜日はフルでバイトしたら、1ヶ月約8万で1月と2月と冬休みの分を足したら25万になる計算になる。」


俺「結構稼げるんやな」


健太「やろ?ほんで、3月から部活とバイトを休んで中免を取りに教習所に行って技能試験取って、春休みに筆記試験で中免取得!」


俺「なるほどな、ほんで肝心のバイクは?」


健太「俺の緻密な計算によると、6月にはバイク買う金が出来るから、バイク買って夏休みはバイクで海に行く!どや!?隆」


俺「海か…ええなそれ!花はその計画するん?」


花「俺もその計画に乗るで、隆もどうや?」


俺「俺もその計画に乗りたいけど、親に聞いてからやな」


健太「一応な、明日からバイト入れ  るらしいから来れたらこいや」


俺「明日て急な話しやな、今日の晩親に聞いてみるわ」


健太「そうやな、明日は来れそうやったらでええで」


俺「わかった」


健太「ほんでや!コレ持って来たんや!」


俺「ん?おっ!バイクの雑誌か」


健太「そや!欲しいバイク決めろや」


俺「健太は何が欲しいん?」


健太「最速のNSRや!」


俺「あぁ、なるほど」


健太「もっと驚けや!」


俺「うるさいなお前は、いや健太らしくてええんちゃう?花は?」


花「俺は、エルミネーターやな」


俺「聞いた事ないな、どれや?」


花「これや」



花は雑誌をめくって、エルミネーターのページを俺に見せた。


俺「独特な形してるな、ほんで花に似合いそう!あははっ」


花「コレ見た時に、コレしかない思たわ」


健太「ちょっと待て!隆、俺の時とリアクションが違いすぎる!」


俺「細かいなお前は、あははっ」


花「まぁ、一通りバイク見てみろ」



久しぶりに何かやってみたい事が出来た、そして久しぶりに心から笑った気がした。



俺は、バイク雑誌を見てみた。



健太と花が1台1台バイクの説明をしてくれた。



俺は、1台のバイクに目が行った。


俺「このVFRってバイクどうなん?カッコいいな」


健太「おぉ!VFR400か?VFRはV型4気筒とRacingの略やねん、とてつもなく速いけど高いぞ」


俺「74万8000円!?高っ!」


花「それは、他のよりちょっと高いな」


健太「ほんでVFRは、まだ出て2年くらいやから中古も少ないかもしれんな」


俺「いや、俺はVFR買うぞ!バイト頑張ったら何とかなるやろ」


花「貯金が30万くらいあるから、何とかなるかもな」


俺「頑張って夏休みはVFRで海行こうや!」


健太「俺も頑張るでぇ!」



その日の夜、母親が帰って来るのをリビングで待った。



11時過ぎに母親が帰って来た。


真弓「あら?隆、まだ起きてたん?」


俺「あぁ、母さんに話しがあって」


真弓「何?」


俺「俺バイクが欲しいねん、そやしバイトして買ってええかな?」


真弓「バイク?んー…まぁバイトは社会勉強にはええからええとして、バイクは危ないしなぁ」


俺「当たり前やけど、ちゃんと免許取って安全運転するし、この先車かって運転するんやからバイクも社会勉強やん、頼む!お願い!」


真弓「そう言われたらそうやけど、無茶せぇへん?」


俺「せぇへん!」


真弓「自分で働いてお金貯めて買うのは、ええ経験やしやってみ」


俺「ありがとう!」


真弓「それと、まだ未成年やけど悪い事と良い事は分からなあかん歳やから、十分気をつけて責任持ってやりなさいね」


俺「分かった」


真弓「隆は、何かに夢中になる事って今まであんまりなかったから、ええ経験になるわ」


俺「うん」


真弓「これでちょっとは元気なってくれたら私は嬉しいから……がんばりなさい」



あの、田中が居なくなって入院した頃から、俺が元気がないのは母親は気付いていた。



バイクを買う事を許してくれた母親に俺は本当に感謝した。



俺「母さん」



母親は、上着を脱いで冷蔵庫から缶ビールを取りキッチンの椅子に座って飲み出した。


真弓「どうしたの?」


俺「俺、高校出たら就職するから」


真弓「高校から先は、好きにしたらいいけど後悔しないようにしなさい」


俺「母さんも夜遅くまで仕事せんでもよくなるやろ?」


真弓「ん?私の心配?」


俺「そらそうやん」


真弓「私の心配して大学行きたいのに行かへんねやったら、隆は親不孝もんやで」


俺「ちょっとはそれもあるけど…」


真弓「もう隆も大人やし、そういう事は色々悩みなさい、あははっ」


俺「うん……」


真弓「隆、私ね、自分で事務所作ろうかと思ってるんよ」


俺「そうなん?凄いなぁ」


真弓「隆が働き出したらって思ってたんやけど、隆が大学行かないで働くんやったら予定が早まるなぁ」


俺「この家でするん?」


真弓「まだそこまで決めてないけど、どうしようかな?」


俺「ここでやった方が舞は喜ぶんちゃう?」


真弓「そうやね、私もあんたたちと一緒にいたいし考えとくわ」


俺「うん、俺はもう寝るわ」


真弓「うん、ゆっくりね」


俺「おやすみ」


真弓「はい、おやすみなさい」



次の日、朝早く起きて健太の叔父さんが経営しているスーパーに行った。



しばらくして、健太と花がやって来た。


健太「おぅ!隆!今日から来れたんやな」


俺「おぅ、昨日バイクもバイトも母さんええって言うたから、ちょっとでも早く金稼がなな」


花「これで3人ともバイクOKやな」


健太「計画実行やな!頑張ろけ!」


俺「よっしゃ!」


花「ほな行こうや」



スーパーの裏口から入ると、健太の叔父さんが出迎えてくれた。



このスーパーの店長で、健太のお父さんの弟さんで、見た目は髪の毛が薄くて中肉中背だ。



接客業だからか、笑顔が自然で愛嬌がある。


俺「今日からよろしくお願いします」


花「お願いします」


店長「あぁ、こちらこそ頼むな、名前と生年月日と住所を書いといてくれる」


俺「分かりました」



この頃だからか、このスーパーだからか分からないが履歴書とかはいらなかった。


店長「書けたら仕事教えるから、こっちに来てくれる」


俺「はい」

花「はい」



一応健太も書いていた、3人とも書き終わって店長のところへ行って仕事を教えて貰った。



商品の品出しや陳列や商品管理、商品が売れて棚の奥に行った商品を前に持ってくるとか色々やることがあった。


店長「まだまだ細かい作業もあるけど、ちょっとずつ覚えてくれたらええから、それとどの商品がどこにあるかいうのもちょっとずつ覚えていって」


俺「分かりました」


花「はい」


健太「まぁ、気楽に行こうや」


店長「お前は気楽にすんな!あほ」


俺「あははっ」


花「はははっ」



確かに気楽に構えていたら、商品の種類すら覚えられない。



バイト初日のこの日は、ほとんど仕事を教えて貰っただけで終わった。



初めての仕事を終えて帰宅すると、学校とはまた違った疲労感が襲ってきた。



リビングに舞がいたので「ただいま」と言った。


「お帰り、今日何してたん?」



そういえば、舞には何も言って無い事に気付いた。


「舞に言ってなかったな、俺今日からバイト初めてたんや」


「ええっ!そんなん?」


「うん、バイトしてバイク買うんや」


「ふーん、そうなんや」


「ほんで悪いんやけど、晩ごはん頼めるか?」


「えぇー!毎日!?」


「ほとんど毎日になるな」


「お兄ちゃんのバイクの為に、舞まで頑張らなあかんの?」



舞が膨れっ面になっていたが、正直可愛いので腹が立たない。


「分かった、ほんなら舞の誕生日に何か買ったるから、それでどうや?」


「何でもええの?」


「買える範囲内やったらええで」


「ほんま!?お兄ちゃんバイト頑張ってね、あははっ」


「舞、変わりすぎやろ!あははっ」


「何にしよっかなぁ?」


「舞の誕生日は9月やろ?ゆっくり考えたらええやん」


「うん!分かった♪晩ごはんは任せといて!」


「あぁ、何もかんも俺のせぃでほんまにごめんな、舞」


「うん、まぁしょうがないやん、さっちゃんの事はどうするん?」


「うーん…今は、どうしようもないな」


「ずっとこのままなん舞は嫌やで!」


「あぁ、また何か考えてみるわ」


「うん」



とは言ったものの、何も考え付かないし佐知子に会っても何を言えばいいかも分からなかった。



この日の夕食は、舞が作ってくれていたので有り難く食べた、これからは俺と佐知子の問題とバイトの為に迷惑をかける。


「舞?」



俺は、夕食を食べながら舞を呼んだ、テレビを見ていた舞がソファーの背もたれから顔をこちらに出した。


「何?」


「母さんが、自分で事務所作ろうかと思ってるって」


「そうなん?」


「うん、この家でやるかは分からんみたいやけど、舞も毎日母さんがいた方がええやろ?」


「うん、そりゃ何かとお母さんがいた方がええよ、洗濯物だけでも大変なんやから」
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