フラグ


「あぁ、そうやな」


「毎日、お母さんがいるようになったらいいな」


「母さんには俺から言っといたで、ここで仕事したら舞も喜ぶんちゃうかって」


「舞はまだ小さかったから、普通にお母さんが家にいるって記憶があんまりないし、そうなったら嬉しい」


「でも俺が、就職してからになるみたいやけどな」


「就職って、お兄ちゃん大学行かへんねやろ?」


「今のところは、行かへん方向で考えてるけど」


「お兄ちゃんも大学行って弁護士とかどうなん?あははっ」


「俺は、残念やけどそこまで頭良くないわ、あははっ、俺より舞の方が弁護士なれるんちゃう?」


「弁護士かぁ…舞は美容師さんかケーキ屋さんがええなぁ」


「へぇー舞、やりたい事があるんやな」


「お兄ちゃんないの?」


「無いなぁ…全然」


「お兄ちゃん、何になるんやろな?」


「普通のサラリーマンやな、あははっ」


「それも何か似合わへんな、あははっ」


「そうか?でもまぁ、そんなもんやろうな」


「ふぁー…そろそろ舞、寝るわ」


「おぅ、おやすみ」



舞は、二階の自分の部屋に行った。



俺は、明日もバイトなので皿洗いをして風呂に入ってすぐに寝た。



翌日のバイトから、分からないところは店長に教えて貰いながら頑張った。



花も頑張って仕事をこなすが、健太だけはのんびりやっていた。



冬休みが終わる頃には、仕事の段取りも分かってきて慣れてきた。



三学期が始まっても学校が終わったら、毎日バイトに行った。



バイトが終わるのが夜10時だったので夕食を食べて風呂に入って、としていたら母親が帰って来て良く会うようになった。



母親とは、世間話を良くするようになって「こういう親子の会話」は、大事だと思った。



三学期も終わりに入った頃、風呂から上がったら母親に佐知子の事を聞かれた。


「さっちゃんのお母さんから聞いたけど、さっちゃんと喧嘩でもしたん?」



最近は、バイトとバイクと貯金の事で頭がいっぱいで佐知子の事を忘れかけていた。


「あぁ、喧嘩やないけど……」


「ん?何かあったん?」


「あったのはあったけど……」


「何?言いにくい事?」


「佐知子に好きやて言われた」


「へぇー!そうなん!?ほんで、さっちゃん付き合ってって?」



こういう事を親子で話すのは恥ずかしい、だが家族ぐるみの付き合いだから隠していてもいずれバレるので、言っておく事にした。


「まぁ、そんな感じ」


「で?」


「で?って?」


「あんた何て答えたん?まぁだいたい分かるけど」


「俺は、違う人が好きやって言うた」


「違う人って、あんたが入院する羽目になった子?」


「う………うん」


「なるほどねぇ…」


「佐知子…どうしてるか聞いた?」


「さっちゃんが最近、ずっと家にいるって聞いただけ、ここにも来てへんのやろ?」


「うん」


「そっか、まぁそんな事もあるか」


「仲直りするっていうのも違う気がするし、クラスも全然違うし見かけるくらいやし……」


「あんたら、子供の頃からずっと仲が良かったのにねぇ」


「そういえば、佐知子と喧嘩らしい喧嘩もしたことなかったな」


「でも今のところ、どうしようもない」


「こういう事は時間が経てば、もっとどうしようもない事になるもんやで」


「………そうなん?」


「愛情は憎しみに変わりやすいもんなんよ、私こういう仕事してるからそこのところはプロやから」


「弁護士って法律の事ちゃうの?」


「離婚問題って案件が最近は少しずつ増えて来ててね、隆が生まれる前はほとんどなかったんやけど」


「あぁ、離婚な…」


「そう、好き同士で結婚して離婚する時はひどいもんなんよ、愛情も裏を反せば憎しみの塊」


「何か大変そうな仕事やな」


「あんたたちも、そうなる前に何とかしぃや」


「しぃやって、言われても……」


「舞は何か言うてなかった?」


「怒ってた……」


「やろうね、舞はさっちゃん大好きやもん」


「かと言うて、俺から謝るのも変な感じやし…」


「普通に話しかけたらええやん」


「うん、まぁそうなんやけど」



とは言ったものの、何て話しかけたらいいのかも分からなかった。



次の日、バイトは休みだったので学校が終わってから佐知子の教室に行ってみた。



花も同じクラスだったが、佐知子の方に向かった。



佐知子は鞄に物をまとめて入れている最中で俺には気付いていない。


「佐知子…」



佐知子がこっちを見た。


「何?」



いつもニコニコしていた佐知子が今は表情がない。


「いや、あの…元気か?」


俺には精一杯の言葉だった。


「ウチ、部活があるから…」



この女の子は誰だ?と正直思った。



俺が、子供の頃から知っている「明神佐知子」は、こんな女の子じゃない。


「あぁ、頑張ってな」



鞄を肩に掛けて椅子から立ち上がり、俺の横を素通りして教室から出て行ってしまった。








愛情は憎しみに変わりやすい……







愛情は裏を反せば憎しみの塊………





母親の言葉を俺は思い出した。



俺は、呆然と立ち尽くした。



急に俺の肩を誰かが掴んだ。


「隆!」



振り返ると花が立っていた。


「おぅ、花」


「一緒に帰ろうや」


「あ…あぁ、鞄取って来るわ」


「ほな、隆の教室寄って行こか」


「あぁ」



何とも言えない空気を感じながら、花と俺の教室に鞄を取りに行き学校を出た。



学校を出てすぐに花は話し出した。


「明神と何があったんや?」


「もう去年やけどな、「好き」やて言われた……ほんで「田中の代わりでええから」って……」


「……なるほど…」


「ん?なるほど?」


「いや最近な、明神が元気ないなとは思っててんけど俺が話しかけても、なんちゅうか前とは違う感じでな」


「そうか…」


「ふー…ほんで何でまた今日までほっといたんや?」


「ほっといた訳やないんやけどな、俺から謝るのも変な話しやろ?」


「そらそうやけど、すぐに普通に話しかけたら良かったんちゃうんか?」


「確かにな……」


「まぁ、分からん事ないけどな」


「さぁ、どうしたもんかなぁ…」


「俺から、ちょくちょく話しかけてみたるわ」


「あぁ……でもあんまり佐知子の態度が悪かったらほっといてくれ」


「さすがに俺には無いんちゃうか?」


「それやったらええけど…」



花の家と俺の家との別れ道がきた。


「ほな隆は今日バイト休みやろ?」


「あぁ」


「俺はバイトやしまたな、ほんであんまり気にすんな!」


「おぅ、バイト頑張ってな」



花と別れて一人で家路を歩いていたら舞とばったり会った、舞も学校の帰りだ。



舞と横に並びながら、家に向かって歩いて行き俺から話しかける。


「今日な」


「うん」


「佐知子に話しかけたんや」


「そうなん!?んで、さっちゃんどうやった?」


「完全に嫌われたっぽいな、あははっ」


「あははっとちゃうわ!どうすんの!?」


「なるようにしかならんやろ」


「はぁー……もう!アホ!」


「アホて…」


「アホアホや!アホ!」


「ちょっと舞ちゃん言い過ぎちゃいますか?」


「キモい!「ちゃん」とか付けんといて!」


「はい…」


「もぉーー!ほんまにどうすんのよ?」


「とりあえず舞、佐知子のとこに遊びに行って様子見てこい」


「こうなったら、舞かて行きにくいわ!」


「いや、お前は大丈夫やて」


「何で?」



家に着いて中に入る。


「何で?って…今回の事は俺と佐知子の事やから、舞は関係ないやん」


「そやけど舞は、妹やん」


「舞は、大丈夫やって」


「だって舞、スパイみたいやん」


「みたいやなくて、舞はスパイや」



「スパイなんか嫌!」


「真面目な話し、あの佐知子の態度はお手上げやで」


「んー……」


「とりあえず、今はどうしようもないな」


「ほんなら、どうすんの?」


「今は、バイトで時間がないからな、その間にちょっと考えるわ」


「それでほんまに大丈夫なん?」


「佐知子が、あんなんになったん初めてやから分からん」


「そらそうやけど…」



どうにか佐知子と、元の仲に戻る方法はないかと俺は真面目に考えた。



考えても考えても、良い答えは出かなかった。



佐知子との事を考えながらも、俺はバイクの為に毎日のようにバイトに行った。



そんな毎日にも馴れていき、春休み前からバイクの教習所に通いだした。



バイトを三人とも休む事も出来ないので、教習の日を三人ずらしながら単位を取っていった。



教習所の技能試験迄は、予定通り春休み迄には三人とも合格した、後は春休みに筆記試験を合格すれば中型自動二輪の免許が貰える。



あと4ヶ月で、何とか目標のバイクを買って三人で海に行く。



そう思うと、毎日が楽しかった。



春休みに入って、バイトを三人で休みをもらって試験場に筆記試験を取りに行った。



1時間で100問の筆記試験、これに合格すれば免許が貰える。



問題を一問一問解いていく、そして時間が来て試験は終わった。



合格発表迄は、しばらくあるので三人で試験の話しをした。



試験の話しをして分かったのは、三人とも合格自信はなかった事だけだったが、終わった事は仕方ない。



そして合格発表が、始まる時間になった。



結果発表を、祈りながら見守った。



試験番号順に、合格者の試験番号が電光掲示板に電灯していく。


花「よっしゃ!」


俺「おぉ!受かった!」


健太「あぁ………」



俺と花は受かったが、健太は残念な結果に終わった。



免許証に使う写真を撮り、免許証が貰えるまでしばらく時間があるので昼御飯に行く事にした。



健太が、あんまりにも落ち込んでいたので昼御飯を奢ってやることにした。


花「今日は、あかんかったけど次頑張れ、健太」


俺「次は受かるって」


健太「はぁー…」


花「そんな落ち込むなや」


俺「ほんまやで、健太らしないな」


健太「一回すべったら、何か受かる気がせんわ」


花「数打ちゃ当たるわ、はははっ」


俺「花、それ慰めになってへんやん!あははっ」


健太「他人事やと思って、お前ら」


花「ちゃうちゃう、運が悪かっただけやて」


俺「確かに、それもあるやろな」


健太「まぁ、問題集も色々あるみたいやし、それもあるやろかもしれんけどやな」


花「そやし、運もあるって」


健太「そういう事やないねん!」


俺「何や?」


健太「俺が言いたいのは、何で俺だけすべるんや!?」


花「アホやから?」


健太「シバくぞ!お前」


俺「あははははっ」


健太「あぁー次は一人で来なあかんと思ったら憂鬱や…」


俺「付いて行ったりたいけど、バイトあるしなぁ」


花「そやな」


健太「無理言うて今日は三人休んだからな」


花「次は大丈夫やて」


俺「そんな心配やったら、参考書みたいなやつ売ってたやん、アレ買って帰ったらは?」


健太「そやな、アレ買って猛勉強や!」



健太は、参考書を買ってすぐに勉強していた。



俺と花は、免許証の説明を受けてから免許証を貰った。



人生初の免許証を貰ったのが、やけに嬉しかった。



その日は、家に帰って免許証を舞に自慢しまくった。


舞「免許証取れたんや!」


俺「ええやろー!」


舞「後は、バイク買うだけやん」


俺「そうや、バイト頑張らな!」




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