約束

六話

 身体が重い。ベッドに深く沈んで起き上がれない。しばらくの間微睡みの中で泳いだが、空腹に耐えかねてのそりと身体を起こす。いつも通り貧血で目眩を感じた。
体調の良い日などほとんどない。若いくせにいつもどこか不調だ。
心の中で文句を言いつつ顔を洗い目を覚ます。
リノヴァが言っていた「思い出さなければならない」とはいったい何のことなのか。手がかりもなく、何から考えていいのか分からない。
ほとんど昼食の時間なので、パンとサラダと紅茶を用意した。ぼけっとしていても手は動くから人間って不思議だと思う。
何を思い出せばいいのだろうか。逆にどんな大事なことを忘れているのだろう。分からない。手がかりが、ない?
違う。あの言葉は聞いたことがあった。いつ、何のタイミングでかがきっと重要なんだ。

「愛してるよ。ずっとずっと君だけを見てきた。君だけを求めてきた」

ずっとずっと……。そこには切実な想いが込められていた。重い言葉だった。しかし、リノヴァと出会ったのはいつだっただろうか。考えると何故か小さい頃から居たような気がする。そんなはずはないのだ。そもそもいつから私はあの世界に居たのだろう。
思い出せない。何かが変だ。小さい頃の記憶がほとんどない。何故だろう。
 携帯電話の着信音が鳴り、思考が中断された。メールが届いたようだ。

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