約束
 メールは彼からだった。そこに書いてある内容は理解の範疇を越えていた。

『君をあんな目にあわせてしまった僕を恨むのは分かるよ
 しかし僕は出来ることはやってきたつもりだ
 君ももう大人なんだ
 それに僕の娘達は君の妹でもあるんだ
 家族として受け入れられないだろうか
 僕も心おきなく幸せを享受したいんだ
 勝手な父親を許してくれ
 愛しているよ』

意味が分からない。誰かへ間違えて送ったのだろうか。
だっておかしいじゃない。私は恋人でしょう?あんなに好きだって言ってくれたし、絵だって教えてくれた。髪だって撫でてくれたし、おでこにキスもしてくれた。手も繋いだし、そもそも彼は父親なんかじゃない。
でも、でもいつ恋人になったんだろ?
何かがおかしいよ。どういうことなの?
どうして思い出せないの!?
もう一度メールを読み返し、添付画像に気づいた。開けて見ると、知らない男と彼の子どもが写っていた。まるでこっちにおいでと言うように、暖かい笑顔を浮かべいる。
この人は誰だろう?どうして彼の子どもと一緒に?
急に焦燥に駆られ、震える手で前のメールを開く。添付画像を表示すると、信じられないものが写っていた。
顔が、彼じゃない。
知らない男がいる。
データフォルダを開き、彼の写真を探す。
ない。ない、ないないないない!
どこにもない!
こいつは誰なんだ。何故彼の写っていたところに知らない男がいる。
呆然としながら、知らない男を見つめる。
何度も会ったじゃない。顔が違うなんて有り得ないよ。
それに父親は……。父親は、分からない。母親の顔も、思い出せない。記憶がない。
目の前が真っ暗になった。心臓が激しく鼓動している。冷や汗で手がびしょびしょだ。
私はいったい何だろう。
大海に放り出されたような孤独を感じる。自分という存在がガタガタと根底から崩れてゆく。
もう一度メールを見ると更におかしな事実に気づいた。日付が飛んでいる。昨日のはずだったのに、メールは2日空いていることになっている。
そこまで寝ていた?
そんなわけない。
いったいこれは何だ。
何が起きている?


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