約束
へなへなと床に座り込んだ。手足が震え、力が入らない。
何も理解したくなかった。誰か助けてと心の底から祈った。しかし、どこかで冷静な自分がいて、これは起こったことなんだと認めている。
ぎゅっと目を瞑り、頭の中を必死に整理する。
恐ろしい。逃げたい。知りたくない。こんなの知らない。私じゃない。
たくさんの言葉が駆け巡り、壊れそうだ。

「リノヴァ……」

一言そう呟いただけで心が軽くなり、少し落ち着くことができた。なんとか立ち上がり、震えたままの足を動かす。すると、引き戸の前に自分がいた。もちろん、自分で動いたわけじゃない。するっと自然に私は引き戸の前にいたのだ。きっとまた開けろという意味なのだろう。
正直開けたくない。だけど開けなきゃいけない。早く悪夢を終わらせたい。深呼吸をしながら、引き戸に手を掛け力を込める。
先ほどと似たような光景。足を上げた男性。うずくまる子ども。しかし、決定的に違っていたのは女性。こちり背を向けて男性と子どもから距離を置いている。まるですべてを拒絶しているかのように。そして子どもにも変化があった。表情が無い。虚ろな目が私を見ている。気圧されたように一歩後ろに下がった。そして、動き始める光景。
小さな体が蹴り上げられ、宙を飛ぶ。まるで人形のように。仰向けに倒れた彼女はそれでも無表情だった。男は更に追い討ちをかけようとした。
――止めなきゃ、死んじゃう。

「やめてよ!!」

叫びながら男性の腕を掴んだ。感触は確かにあるのに、まったく止められずに引きずられていく。

「やめて! 止まってよ!」

どんなに叫んでも、見向きもしない。無音の中で私の声だけが響く。男性は子どもを蹴る。子どもの上に覆い被さっても、どうしてなのか防げない。そして、また消えた。
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