約束
 「なんなのこれ……」

これが記憶なの?
私の記憶はこんなものばかりなの?
どうして?
小さな女の子は、私の面影があった。間違いなく私なのだ。だけど、あの写真の父はいない。代わりに居るのはあの暴力男だ。
戸の前に立ち尽くす。まだ何かを見なければならないのか、その戸は閉められている。早く終わらせたい一心で戸を開ける。
先ほどの光景。服が長袖から半袖に変わっているだけで、ほとんど変化のない光景だった。女の子が少し大きくなっているような気もする。一歩踏み出した。また、蹴り上げられる女の子。無駄だと思いつつもう一度女の子を抱きしめる。

「あんた誰なんだよ! ふざけんな!」

届かない抵抗。

「母親なら子ども守れよ!」

届かない声。

「やめろって!」

悔しくて、怖くて、とにかく叫んだ。何もしないで見ている方が怖かったから。
彼らはまた唐突に消えた。そして、また戸の前に立つ。
何か、どんな小さなことでいいから、幸せを見せて。
祈るように戸を開ける。
絶望が広がった。
また、同じ……。服が変わり、女の子の髪が伸びている。それだけ。
一歩大きく踏み出す。また女の子が蹴られる。今度は覆い被さらずに、蹴りを止める位置に行く。
 そして、今度は私に直撃した。
痛みと恐怖が体中に駆け巡った、その瞬間――。
頭の中に様々な情報と感情が入ってきた。
怖い、痛い、痛い、痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い!
あたらしいおとうさんにいっぱいけられた。なぐられた。がまんしなきゃ。おかあさんたすけて……。
痛い、痛い、痛い、痛い。
きょうもいっぱいけられた。なぐられた。がまんする。
痛い。痛い。いたい。
しょうがないの。がまんするのがやくめだから。
いたい。
いたい、いたい……。
これがわたしのそんざいするりゆうだから。がまんする。

「あぁ、あ、あ」

戯言のように口からこぼれた。

「違う、違う。私じゃない」

違う。私なんだ。私が――
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