ビスクドールの涙
音がする度に
旦那様がお部屋を
確認されても何も
変わっていないのです。

お嬢様が亡くなられて
一年が経った頃旦那様が悲しみに
耐え切れず、お部屋にあった物を
一体のビスクドールだけを
残して、全て処分されたのです。

そのビスクドールこそが
全ての根元と知らずに。

お嬢様が亡くなられて
更に二年が経った
ある昼下がり、例のお嬢様の
部屋から声が聞こえて来たと
旦那様が血相を
変えて私の所に来られたのです。

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その場に居た
奥様も私もそんなはずはないと
否定したのですが、旦那様は絶対に
お嬢様の部屋から声がしたと
おっしゃるので三人で
行くことになりました。

鍵は掛けていないので
お部屋のドアを開けました。

しかし、そこには
あのビスクドールが
お嬢様のベッドに
鎮座して居るだけで
静寂に包まれ声なと聴こえません。

奥様にも何も聴こえでおらず
旦那様に気のせいだとおっしゃいました。

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旦那様も奥様も
出られ、私も出ようとした
その矢先、啜り泣く様な
声が聴こえたのです……

しかし、振り返っても
先程と変わらず
やはり、例のビスクドールが
鎮座して居るだけです。

それから暫くは旦那様も
お一人であのお部屋には
行かれませんでした。

そして、一騒動あった
あの日から更に二週間後、私は
とうとう、
見てしまったのです……

あのビスクドールが
涙を流しているところを。

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一瞬、目が合い、
腕を挙げ口元に手をやり、
人差し指を立ててシーという
仕草をしたのです。

つまり、
旦那様や奥様には秘密と
いうことなのでしょう。

私はこのことを
お二人には黙っていることにしました。


まるで、亡くなられたお嬢様と
約束した、そんな気がしたのです。

きっと、
彼女も淋しかったのだと思います。

私のお話は
これで終りでございます。

またの機会が
ありましたらその時は
お付き合い下さいませ。

紅茶をご用意して
お待ちしております。
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