満月~full moon~
act.1*下弦の月
私はその日の朝、初めて人が飛ぶのを見た。
それは、陸上競技場などではない。
本来なら、人が飛ぶところではない。
何の変哲もない、国道で見たんだ。
人は、宙に浮き、綺麗な半円を描き落ちていった。
あまりにも急な出来事で、現実味がなかった。
全てがスローモーションに写って、それをボーッと目で追うことしか出来なかった。
人が落ちたとたん、ぐしゃっと嫌な音と共に、歓声ではなく悲鳴が響き渡った。
その悲鳴を聴いて、ようやく我に返った。
目の前には、血の海が広がっている。
そう、それは交通事故の現場。
片側一車線のカーブもなく見通しのいい直線道路。
私は、そこで起きた事故の瞬間を目の当たりにしたのだ。