満月~full moon~
家も知らないとなれば、他に逢う手段がなかった。
「あっ、恭介って人は?」
思い出したように、絵美が言う。
「知りません。
逢ったこともないですから」
「そっか、そうだよね」
それっきり、2人共黙り込んだ。
どうしていいか分からず、その場に立ち尽くしたまま。
帰るのか、もう少し待つのかも決めかねていた。
「赤石美月さん?」
そんな2人に向かって、男性の声がした。
2人同時に振り返ったそこには、見知らぬ人が立っていた。
見知らぬ人のはずなのに、美月の名前を呼んだ。
なぜ知っているのだろうと、不審そうな顔をした。