小指も抱けない彼女
(二)
窓際に置いたベッドは、朝日をよく通す。
寒さが身にしみる冬の早朝。意識がまだ夢の中ながらも、彼女は凍えていないかと手探りで探す。
瞼が開かない。けれども意識が一抹ほどあれば、真っ先に彼女を求めてしまう体。
「夜鞠くんっ、夜鞠くん!」
感触を味わう前に、鼓膜で彼女を感じ取る。彼女の声を目覚ましに使えば、毎朝、ラジオ体操が出来るほど清々しく起きられよう。
「起きて、起きてーっ」
鼻っ柱に違和感。つつかれているのか、よほど起きてほしいらしい。
分かった、今。とは、声に出せないほどの寝起き。うっすらと目を開ければ、眼前に彼女の胸があった。
「なんで、服」
着ていないのか。聖がやりたくないと言ったのに、朝になって気が変わり、もしかしたら、大学行かないとなったのか。
「だとしたら、嬉しい」
「ニタニタしないで、きちんと目を開ける!」
げしっ、と鼻を蹴られた。
ニタニタとは心外だ。裸の彼女を見て欲情しないほうがおかしい。彼女は世界で一番魅力的なのだからーーと、違和感。
鼻を、蹴られた?
何を思っている。いやでも、ぼやけた視界は確かに、足を上げ、俺の鼻を蹴った彼女を捉えている。
「もーっ、起きてー現実見てー!彼女の非常事態なんだよ!」
「ーーっ!」
彼女の非常事態ならば飛び起きる所存だが、動けない。動けば眼前の彼女をーー“潰してしまいそうで”。