シャッフル
 6歳の頃、母に連れられピアノコンサートを見に行った。10本の指でピアノを操り、独特の音色を奏でるピアニスト。そのメロディーが、その技能が、ピアノとピアニストが一つになり会場全てを包み込むその美しさが、幼いながらに胸を打たれた。

 自分もそんな表現者になりたくて、すぐにピアノを習い始めた。

 華やかな舞台でオーケストラと共にピアノを弾き、観客からの大きな拍手に包まれる――。そんな夢を幼いながら見ていた。

「いつまでそんな下らない事をしている!ピアノなんか捨ててしまえ!」

 シワだらけの顔を歪ませ、俺を叱り付けてくる爺さん。

 ピアノを習って2年。毎日練習をした。決して上手いとは言えないが、初めて子犬のワルツが弾けるようになった。

 俺はただ……爺さんに聴いて欲しかっただけなのに……。

「遠也!お前はこの鈴木グループを担って行くんだ!その為だけに努力しろ!」

 険しい顔で容赦無く怒鳴り付けてくる。

 俺はピアノを弾く事も、夢を見ることも許されないのか――?

 何なら許される……?何を努力したらいい……?勉強?経済学?それとも会社をまとめ上げる力か?


 それを身につければ俺は自由になれるのか――?


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