シャッフル
「俺さ、6歳の時にピアニストに憧れてピアノを習い始めたんだ。でも長男の俺はいずれ父の会社を継がなきゃいけない……でも辞めれなくて2年程習ってたんだけど、爺さんに『ピアノなんか辞めろ』っていつも怒られててさ」

 人に初めて話す――。幼い頃、抱いていた気持ち。誰にも言えなくて……でも聞いて欲しくて……。ただ知って欲しかったんだ。

 懐かしい記憶を辿りながら物思いにふける様に話す俺に、紗代里はビーズに視線を移し、ただ黙って聞いていた。

「夢を見るな。無駄な努力をするな。賢く生きろ。お前に必要なのはピアノじゃない。現実を知れ。なんて事、小学生3年生に言うんだ。凄いだろ?本当に呆れるよ」

「それで……ピアノやめたの?」

「それもあった……だけど逆に爺さんの思い通りに生きれば認められるのかなっとも思えた。そうしたら俺は自由になれるのかなって……」

 キラキラと輝くビーズに目を向けたままそう答えた。
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