シャッフル
 コンサートは休憩を挟みながら2時間ほど行われた。

 美しいほど繊細に、時には激しく大胆に……。

 彼女が織りなすテクニックと場面場面で変わる彼女の表現力。それはCDだけでは伝わらなかったもの――。

 凄い……。

 思わず手を握りしめ食い入るように彼女を見つめた。

 凄い……。本当に凄い……。ピアノだけじゃない……彼女が持つ感受性の豊かさや雰囲気もあるんだろう……。

 それが全てピアノによって融合され、何倍にも人を惹き付ける――。

 思わず感動して胸が一杯になった。

 彼女が最後の曲、ドビュッシーのアラベスク第1番を奏で始めると、溜まった感情が溢れだす――。

 思わず込み上げてくるモノを感じ、右手で目を覆うように置いた。

 人前で泣くだなんて……。

 そう思いながらも、気持ちを抑える事が出来なかった……。

 そんな俺の様子を、紗代里はただジッと見つめていた事をその時俺は知らなかった。
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