シャッフル
 女性がピアノの椅子に座ると他の客も彼女に視線を向ける。

 彼女は静かに鍵盤に指を置くとゆっくり深呼吸をした。

 そして――。

 低い鐘の音の様に静かに和音が響き出す。

 その音は徐々に大きくなると、暗く感傷的な曲が奏でられ始めた。

「あ、俺この曲知ってますよ。結構有名ですよね」

 ピアノに目を向けたまま隣に座る森岡が言う。

「……ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番だ」

「さすがクラシック好きの常務。よく知ってますね」

「……これぐらい知っとけ」

 横目で森岡を見ると少し溜め息混じりにそう言った。
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