シャッフル
 森岡から再び女性に視線を向ける。

 女性のピアノの音はとても綺麗で聴いていて心が落ち着く……。

 そう思ったのは俺だけではない様で、他の客も彼女の音色に酔いしれているようだ。いつの間にかBGMも消されている。

 ああ……いいな……。

 ピアノ一つでこんなに人を惹き付けるなんて……。やっぱり……ピアノは凄い……。

 俺も弾けたらな……。

 もの悲しい気持ちになりながらも、ただただ……彼女が奏でる美しいメロディーに耳を傾けていた――。

――――――――――
――――――

 彼女がピアノを弾き終わるとパチパチと拍手が上がる。

 彼女は椅子から立ち上がり軽く頭を下げるとステージを降りた。

 そしてカウンターまで来ると、どこかスッキリした顔をして俺から一つ離れた椅子に腰を下ろす。

 そんな彼女の様子を眺めていると、俺の視線に気がついたのか目が合ってしまった。

 彼女はニコッと笑うと俺に話しかけてきた。

「ねぇ。もしよかったら一緒に飲みません?連れを待ってたんだけどドタキャンされて一人なの」

 彼女は笑いながらそう言うと森岡が小さな声で話しかけてきた。

「どうします?断りましょうか?」
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