つぼみ、ほころぶ
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あたしは、昨日、高校を卒業した。





「ん~、美味しかった~っ! ね、お母さんも気に入ったでしょ? 家より大食漢だった」


まだ暖かさは少ない三月の、時刻は夜九時の車 内。助手席の母に、あたしは後部座席から身を乗り出して同意を求めた。


だって、普段は絶対に行かない高級な中華だったし、個室だったし、卒業祝いなんてことをしてもらって嬉しかったから、ひとつでも多くそんな喜びを言葉にしたかったんだ。


「千歳、ちゃんと座ってなさい」


危ないと注意されて座席に座りなおすと、傍らにあった、今日は仕事で不参加だった父へのお土産からいい匂いが漂ってくる。飲茶セットだ。


「お行儀良くしてたら、お父さんのお土産つまんでもオッケー?」


あまりにも美味しかった中華は、もうはち切れそうなお腹を、それでもまだ満たしたくなる魅力を充分に放ってた。
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