つぼみ、ほころぶ
「……たとえば……そうだな。――とてつもなく悲しいことがあったとする、独りじゃ立ってられないような悲しいこと。そんな時、その温もりとか安心感をなまじっか知ってたりすると、好きじゃない、たとえ友人だとしても、目の前に誰かがいると、一晩一緒にいてバランスをとりくなる。縋りたくなる。その過程に身体の繋がりがあってもそれは――とかで分かるか? ……まあ、ほんの一例だ」


そんなこと……


「……ユウちゃんに、そんなことがあったんだね」


「たとえばだ」


「ユウちゃんは、想像でそんなこと語れないでしょ?」


「……だったらそう思っとけ。オレの不幸を餌にちょっとは浮上できるならそうしとけ」


そんなふうに言えるということは、ユウちゃんにとっては完全に過去になった出来事なんだろうか。


そんな悲しい出来事に、ユウちゃんはどう行動したのか――訊いたら、オールナイトの映画館で一晩過ごしたと白状した。


流されたくはないけど、放ってもおけない、最後だけ優しいユウちゃんらしかった。
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