恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
「ははは、なんだろう」
早紀は返事に困り、ヘラヘラする私に涼やかな視線を送る。
だって、笹山の前で格好悪すぎ。
昨日久々に早く帰れるってウキウキしてるのを、えらく白い目で見られたのに。
幾らなんでも、フラれたなんて言いたくない。
そりゃあ階が違うとはいえ、同じ会社だから自然に伝わるとは思っていたけれど。
早紀は目敏い。
「ふぅ~ん。今披露しないんなら、今夜飲み行きましょうねぇ。昨日で忙しいの一段落したんでしょ」
早紀は手に持っていたスマホをいじりながら告げた。
「でもこの時期だし、お店」
「今予約した」
私の言葉を遮って目の前に突きだしたスマホの画面は、どこぞのお店予約完了。
「今日はあんた誘わないわ」
早紀は、笹山に対して黒い笑顔を向けた。
「それじゃ里沙、6時には終わらして、ね?」
それは提案ではなく決定事項で、早紀は私達に軽く手を振ると優雅に歩き出した。
あぁ、早紀の容赦ない尋問をうけるのか。
小さな溜め息を1つ吐いた途端、後頭部にピリッとした痛みが走る。
「い、痛ッ」
クリップ留めからこぼれていた髪を強く引っ張られたらしい。
一瞬、笹山の指先をうなじに感じてドキッとする。
顔を上げると笹山の冷たい視線とぶつかった。
「お前ボケッとし過ぎ。結局、色ボケかよ」