恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
廊下に出ると、笹山はエレベーターホールへ向かって足早に進んで行った。
160センチそこそこしかない私は、必然的に後れをとってしまう。
今日は人が殆ど残っていない所為か節電の所為なのかは知らないが、廊下が薄暗く感じた。
並んで歩いてはくれない笹山の背中を道しるべのように思いながら、私もヒールを鳴らす。
笹山はエレベーターまで辿り着くと、1人肩で大きく息を吐いた。
ようやく隣りに並び見上げたその横顔には、先程の笑みなど微塵もなく。
あ、まただ。
最近の笹山は、直ぐにこういう表情をする。
冷たい不機嫌そうな顔。
でも、私は敢えて笹山の機嫌の悪さを無視して話しかけた。
「時間遅くなっちゃったね」
私の視線を感じたのか、笹山は冷たい眼差しを向けてきた。
「……お前、何でちゃんと断れねーの?」
「だって、取引先の人だし」
「予定聞かれた時点で少し位、気を回せ。こんだけ仕事持たされたんだから、嘘でも会社に戻るって言えば良いだろ」
「……察しが悪いもんで」
「察しが悪い上に、タマは隙があり過ぎなんだよ」
「そこまで言う?別に食事に誘われただけじゃない」
私はムッとしながら、チンッと小さな音を立てて止まったエレベーターへ乗り込んだ。