恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
「……意味分んない」
「お前みたいに面倒臭い女、やっぱムカつく」
そう言い放った笹山の唇には、パールピンクがはみ出している。
面倒臭い女?
ムカつく?
たかがキス位、と言いたいのか。
私は持っていたハンカチで、笹山の口元を力を込めて擦ってやった。
まるで私がマーキングした様なリップ跡を消し取りたい。
「痛ってぇ」
笹山は綺麗な顔を歪めて、私の手からそのハンカチを奪い取る。
「……笹山なんて最低、最悪」
本当はもっと罵ってやりたいけれど、ボキャブラリーの少ない私は、こんな言葉位しか吐けない。
「感謝とか尊敬よりずっとマシだね」
笹山は小さく笑うと、私より先にビルの外へ出ようとドアに手を掛けた。
笹山のその横顔に今まで見たことの無い『男』の部分を感じて、戸惑う。
何で?
そんなこと、今まで一度も言わなかったじゃない。
ドアから手を離したところで、笹山のスマホが鳴った。
笹山はスーツのポケットからスマホを取り出したものの、着信相手の名前を見て顔をしかめながら、電話に出た。
「…何?」
笹山の愛想の無い低い声が、私の中に響く。