恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
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そんなに仕事が立て込んでいた訳ではないが、いつも通りに残業をしていたある夜。
珍しい奴から電話が来た。
同期の成瀬からだった。
スマホに掛けて来たところを見ると、奴は家に帰っているようだ。
会社に居るなら成瀬は、内線で電話を掛けて来る。
それが、飲みに行く誘いでも。
せめてメールを使えと言ったら、私は直ぐに答えが聞きたいと返された。
実質的な女。
それが成瀬早紀だ。
『ヘタレ男君、大変なことになったよ』
「誰がヘタレだ。大した用事じゃないなら電話なんてしてくんな。こっちはまだ仕事中」
『へぇ~。あんたが馬鹿みたいに仕事してるのに、あの娘ってば仕事上がったんだ』
……タマのことか。
急ぎの仕事では無いのか確認されたから、帰れば?と言ったのは俺。
「早く帰れる時位、帰りゃあ良いだろ」
『そんな呑気に構えてるからさぁ。あんたの大切な子ネコちゃん、他のもんになっちゃったみたいよ?』
俺のキーボードを打つ手が止まる。
「……俺、ネコなんて飼ってねぇし」
『何、格好付けてんの。馬鹿じゃん』
俺がいつもタマに言っている馬鹿を、ここぞとばかりに成瀬に使われた。