恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
あの男、か……。

これは、私の同僚を指しているのか。

でも、残業してお腹空けばラーメン位食べるよね。

定食屋でビールの一杯も飲んだらいけないとか?



このタイミングで、ため込んでいた不満を言うんだ。


「笹山は、同じチームだから。……永井さんだって仲の良い同期いるでしょ?」

「女性はいない。皆退職した」

「私にはいるの。早紀と笹山はそうなんです」

「僕はそういうの理解できない」


永井さんはようやくこちらに目を向けた。


こんな顔の永井さん、初めて見た。

こんな冷ややかな目するんだ。


私って何も見てなかったのかな。

付き合おうと言われて有頂天になっていた?


心の中に諦めが生まれた時、永井さんの言葉が突き刺さった。

「でも、ついでに言っとくけど、里沙のそういう態度が笹山君の彼女を傷付けてるってこと忘れない方が良いと思うよ。ちなみに笹山君の彼女、美奈ッ……磯山の同期なんだ。君が近くに居るせいで、悩んでるらしい」


……ヘェー。



なんか、すごくイラッとしたんですけど。

別れ話をしながら、新しい彼女の名前を呼び捨てて。

自分の不実はさておき、他人の恋路の心配までする訳ですか。


余裕じゃないの、永井さん。

好きになることより、嫌いになることの方がずっと簡単って気が付いた。


「サヨナラ、偽善者の永井さん」


私は今までの人生の中で5本の指に入るだろう微笑みを浮かべつつ、お冷を盛大にぶちまけてやった。
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