恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

「そんな顔しなくて良いわ、今更知ったことでもないし。大体社長とあんた、雰囲気が似てるからね」

大したことでは無い、と言うように成瀬は片手で仰いだ。


速人兄(はやとにい)と俺が似てる、か。

俺より6つ上の従兄弟。

いつも沈着冷静な男が、この女と関わるところがあるのか。


俺らの狸じじいがこの夏、突然健康不安を理由に友野グループの会長職を退任したところから、トップの人間がバタバタと動き出した。

友野ソリューションの社長だった速人兄の父親、つまり俺の伯父がグループトップの座に選任された。

そして速人兄は、アメリカの関連会社から引き戻され、急遽社長を引き受けることになった。


「道理で一目見た時から、気に入らなかったのよ。笹山のこと」

「……お前、速人兄と本当にどうにか、なりたいんだよな?」

「あんたと同じヘタレ。でもこれ以上はまだ教えない、個人情報」

この2ヶ月やそこらでどうにかなった話でも無さそうだ。

「俺の知ったことじゃねぇな」

「ふん、取りあえず笹山は里沙っちを捕まえてね。今まで通りご飯位誘うこと。変な遠慮して距離置いてんじゃないわよ。あんたのこと崇拝してるあの娘が断るはずないんだから」

「……何か、お前怖えーわ」

「欲しいものがあるなら、しっかり手を伸ばさなきゃ。あんたも、あたしも、ね」

成瀬は心外、と言うように口の端で笑った。

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