恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
―――

イルミネーションを横目に白い息を吐きながら、駅から自宅までの道のりを1人黙々と歩く。

……自業自得だな。

キスして逃げ出されるとは。

俺がタマにしたことは、鈍い女への完璧な八つ当たり。


先週の金曜、タマの様子が明らかにおかしかった。

浮かれて帰った前日に、経理のメガネと喧嘩でもして落ち込んでいるのかと思い、タマの腑抜け具合の酷さの所為で、この日の俺の不快な気分はマックス。

だから深夜に掛かってきた成瀬からの電話で、別れとその理由を聞いた時、少なからず自分も関与していたと知って、口元がにやけそうになった。


俺はタマが思っている程、善い男じゃない。


成瀬は、里沙はあんたのこと崇拝している、と呆れ顔で言っていたが、俺はそんな大した人間じゃない。

現にタマがフラれたことを、こんなにも喜んでいる。

メガネが俺を邪魔に感じることも承知の上で、タマの傍にいた。

そんなのタマは全く気付いていないようだったが……。

メガネを横取りした女にもグッドジョブと言ってやりたい位だ。


それでも、本当はすぐにでも自分のものにしたい気持ちを抑えて、鈍感女の気持ちを変えていくつもりだった。

俺の方へ傾くように。


それが男に誘われているくせに全然分かってないタマを見ていたら、今までのフラストレーションが一気に噴き出しちまった。

冷静じゃいられなかった。


強引に奪った唇さえ、甘く感じた。


こんなに1人の女に固執するなんてヤバイだろ、と思いながら。

タマに対する執着心に自分自身が驚いている。


――もう隠せないから隠さない。



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