恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
早紀が言ってることは分るけど、私は怖いのだ。

笹山を相手に失恋してしまったら、心がパックリ割れてしまうだろう。

永井さんなんて比じゃ無い位、ううん、前の人との別れよりもダメージが大きいと思う。

「涙拭いて。……そんなに泣いたら私が泣かしたみたいじゃない」

早紀は涙の止まらない私に、薄紫色のハンカチを差し出してくれた。


「……ごめん。ずっと泣きたかったみたい。今朝までは、自分が一歩踏み出した途端、自爆するんじゃないかって思ったけれど、踏み出す前に爆弾が落ちて来てさ。キャパオーバーだ、きっと」

私が泣きながらエへへと笑うと、早紀は少し眉を下げた。

「馬鹿ね、無理して笑わなくて良いわよ」

「早紀もすぐ人のこと馬鹿って言うんだから」

「否定出来ないでしょ。自分の気持ちにようやく気付くなんて、見てるこっちがたまんないわ」

早紀は美しく肩を竦めると、アイスティーのグラスを指で叩いた。

「笹山の気持ちは笹山にしか分らないけれど、あの男が親切を安売りするような男じゃないことは、里沙も知ってるでしょ?」

「……昨日、感謝とか尊敬とか要らないって言われた」

フフッと苦笑を漏らすと早紀は、腕時計をちらりと見て時間を確認した後、鏡とリップをバックから取り出して、その場で塗り直し始めた。

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