恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
この華奢な体を保つのには、必要のない栄養素なのだろうけど、と早紀のすらりとした脹脛(ふくらはぎ)に一瞬見惚れてしまった。

その脹脛の動きが、自社ビルの前でピタリと止まった。

前方を見ると、ビルの前に黒塗りの車が横付けされる。

見るからに高級で役員クラスの車なのだろうと分かるそれから、2人の男性が降りた。


あれは、社長と……笹山?

車の中には誰か分らないけれど、乗っているらしい人影が見えた。

「行くわよ」

早紀の声が耳元で聞こえてビックリするものの、既に彼女に腕をとられ、前へ進むしか無かった。



「ちょっと良いかしら」

早紀が私の腕を離すと同時に声を発すると、彼らが振り返る。

2人の鋭い視線が早紀と私へ交互に向けられ、思わず私は一歩下がった。

単なる一介の社員である私は、無論友野社長と面識なんて無いから、就任以来、眉目秀麗と社員の間で噂の的であった人を初めて間近で見て、正直ビビってしまう。

だけど早紀は何も臆することなく、友野社長を一瞥しただけで直ぐに笹山へ視線を戻す。

「笹山、時間ある?」

「休憩終了の時刻だと思うが」

笹山が返事をする前に、友野社長がじっと早紀を見つめながら答える。

すると、あろうことか早紀の舌打ちする音が聞こえた。


えええっ、まずくない? 仮にも社長に舌打ちって。


早紀は私や笹山に対しては毒舌を披露するが、普段社内では上司や先輩達には礼を尽くし、後輩達には親切に接している。

きちんとオンとオフとを使い分けることが出来る、模範的な社会人だ。

その早紀が。
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