恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
ごめんね、早紀。
折角のアドバイスを無駄にしちゃいそう。
「私、戻るね」
私は笹山の視線から逃れる様に、そのまま歩き出すことしか出来ない。
その時、背後から笹山の低い声が聞こえた。
「昨日のこと謝るつもりねぇよ」
謝って欲しいなんて思ってない。
否定される方がむしろ辛い、と言うことに気が付いた。
「……分かった」
「お前、全然分かってねぇし、こっち見ろよっ!!」
グイッと腕を捕られ、仕方なく笹山と視線を合わせると、2人の間に無言の時間が続く。
笹山は溜息を吐くと、強く掴んでいた私の腕を離した。
「これじゃ、俺達が見世物になっちまうな。……なぁ、タマ。この仕事終わったら、時間作ってくれよ。東野の仕事が終わるまで、今までのままで居てくれ。俺も集中できねぇし」
笹山の口から出たとは思えない言葉に、私は彼を見上げた。
自嘲気味に笑う笹山の表情は、いつもより儚げで……。
私は、その顔へ手を伸ばしたい衝動に駆られながらも、小さく頷くだけに留めた。