恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
7.恋のためらい
それからの笹山は、チームリーダーの高松さんも舌を巻くほどの勢いで、東野物産の仕事に取り掛かった。

私や後輩の浅沼君達もつられるように、精力的に仕事をこなしたと思う。

「僕達この3日で、10日分の仕事量をさばきましたよね」

仕事が立て込んで来ると入れてくれる、浅沼君の目の覚めそうな程苦いコーヒーに口を付けた。

「浅沼君も頑張ったよねって言っても、まだ終わらないけど」

明日から会社は休みに入る予定でも、午前中の時点で東野物産の仕事は、まだ終了していない。

ただ、このままのスピードで行けば、明日の休日出勤位で済むかもしれない、という目途がようやく付いたところだった。


同じシステム部でも他のチームの面々は、もう呑気に大掃除をしていたり、既に気分は年末仕様らしいが、うちのチームはそうはいかない。

「玉井さんは、休み中は実家に帰るんですか?」

「私? どうかな。実家近いから、元旦位戻るかも」

最近、連絡すら入れていない親不孝者の娘におせち料理なんて、用意してくれるかも怪しいけれど。

「浅沼君は、例の彼女とデート?」

「へへっ」と笑う浅沼君は間抜けな位、幸せそうな顔をしている。

「はいはい、どっちもご馳走様」

私は手を振って、浅沼君を追い払った。

人の幸せを妬むつもりは無いが、あからさまに幸福顔をされると、自分の宙ぶらりんな気持ちを思い出して、どうもいけない。

あれから、忙しくて早紀ともゆっくり話していないし。

何度かメールを送ってみたものの『大丈夫、私のことは気にしないで、仕事を片付けなさい』という簡素なメールが戻って来ただけだった。

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