恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
俺は自分が嫉妬深い人間だと思ったことは無かった。

今までは。

でも最近、そうでない自分に遭遇した。

玉井里沙。そう、あいつの所為で。


俺は可愛らしいケーキショップの片隅で、アールグレイの香りに囲まれている。

無意識のうちに胸ポケットの中の煙草を探って、手を止めた。

……テーブルに灰皿が無いってことは、禁煙だよな。

少し冷めた紅茶のティーカップに口を付け、童話に出て来るような可愛らしい内装を、溜息混じりに見渡す。

店舗の半分はイートインのスペースが10席程用意されていた。

ショッピング帰りらしい女達が4組。

皆、美味そうにケーキを食う。

1人で紅茶なんぞ飲んでる俺に、女たちの視線が鬱陶しい。


……全く場違いな俺。

行くって言っちまったのは俺だから仕方ねぇが、まさか店ん中に置いてかれるとは。



『みーちゃん先輩』と里沙が呼んでいた高校時代からの先輩は、想像よりごつくて強面のパティシエだった。
どの面下げてみーちゃんなんだと思ったが、それは腹の中に飲み込んでおいた。

つーか、男だって初めて知ったのは、今日の話しだし。


みーちゃん先輩とやらは、俺を見るなり胡散臭そうな顔をして。

里沙が『会社の同期で、えっと…』と言葉に詰まるもんだから、俺は『彼氏の笹山です』なんて自己申告する羽目にあった。

すると、ことさら里沙は赤くなる始末。
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