恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
今更照れてんなよ、と心の中で毒付くとそれを見透かしたような先輩は、俺の方に不敵な微笑みを向けた。

『里沙、泣かせたらシバクけど?』

ゴツい先輩の低い声は迫力もので、しっかり俺を威嚇した。

『御心配なく。泣かされたのは俺の方なんで』

俺は奴の威嚇に気付かない振りをして、にこりと笑って見せた。

『……事務所スペース狭いんで、あっちの空いている席で待って貰えるかな? ……里沙の彼は。何か持って行かせるから』

『さっ、基樹っ。ここのアールグレイ美味しいよ。ケーキは勿論だけど』

『……お構いなく』

示されたのは入口近くの、如何にも落ち着かなそうな席だった。

嫌がらせかよ。

黙ってその席へ歩き出した俺の背中に、奴がチッと舌打ちしたのは気のせいじゃ無えよな。


……馬鹿だな、里沙は。

ホームページの更新なんてしなくたって、あの男はお前に死ぬ程ケーキを食わしてくれただろうに。

ーー 譲る気なんてサラサラ無えけど。


小一時間位座っていると、周りの視線が痛い。

こんなクソ可愛い店で、待ちぼうけの男に好奇心ってところか。


「あ、あの、待ち合わせですか?」

さっきからやたらと視線を送って来ていた、隣りの席の2人組が声を掛けて来た。
ハタチ過ぎ位の若い女達。

寒いのに露出された肩口がだらしなく見えて、ウンザリする。

俺は彼女らに目を向けることも無く「そう」とだけ言葉を返して、スマートフォンを取り出しメールのチェックをし始めた。

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