恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

ここ何年か男と女の駆け引きすら面倒臭く思えて、女を寄せ付ける気にもなれなかったのは、里沙が……タマがいれば、それで良かったからだ。

あいつがいればそれで良い。


「ごめーん、終わったよ」

里沙は自分のコートを手に持ったまま、済まなそうに俺のテーブルの前に立った。

隣りに座っていた女達は、里沙にチラリと視線を走らせる。


その視線の意味に気付いたのか、里沙は「行こうか」と苦笑交じりに言った。

俺は立ち上がって、里沙の腕からコートをするりと抜き取った。

そして彼女が着るよう、広げてやると。

「……ありがと」

里沙は袖を通しながら、またもや恥ずかしそうな顔をする。

「恥ずかしがってんじゃねぇよ」と言った俺に「まだ慣れない」と赤面する里沙。


その顔がイチイチ愛おしい。


店を出ようとした時、里沙の先輩は彼女を手招きして、店の紙袋を渡す。
里沙はそれを、頬を緩めて受け取った。


少しだけ切ない色を映した先輩の目に同情を覚えつつ、自分の幸せを喜ぶ俺は下劣な人間かもしれない。


店を出た後、断る暇もないくらいの速さで手を繋いで、なんとなく街中をそぞろ歩く。


「夜、何食べようか?」

「鍋物は?」

「基樹の家、土鍋とかあるの?」

「無えけど……電気の奴でも買うか?」

そこから用意するの? と理沙は大きく微笑むから、俺は頭の天辺に口付けを落とした。

「……甘過ぎ」

「お前が慣れて」

……俺の狭量な心にも。

やっぱ、今日はついて来て良かったなんて、コイツには決して言わねえけど、な。


男と女の間にはーーEnd




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