私のファーストキスもらって下さい。
「ちょっと風に当たらないか?」
そう誘った塚本専務は、ベランダの方を差した。俺は頷き、一緒にベランダへ出た。
煙草、いいかな。そう聞かれて頷くと、塚本専務は男でも惚れてしまいそうなほどカッコいい仕草で煙草に火をつけた。
そのまま手すりに寄りかかると、夜空に向かって煙を吐き出す。
そんな一連の動作を俺は、ただ見つめていた。
塚本専務ほどの男なら、女性に悲しい思いをさせたりなんてしないんだろうな。
「悪いな、瞳が余計なこと言って。」
「いえ。…俺が悪いんで。」
そう。瞳さんの言ってることは、1つも余計なことなんかじゃない。
早紀との関係をちゃんと考えなかった俺が悪いし、鈴ちゃんを苦しめてたのは、バカな俺のせい。
「男って、つくづくバカだよなぁ。」
「え?」
「何か違うと思ってても口に出さないし、
曖昧なままで行動しようとしない。」
隣を見ると、塚本専務は何かを思い出すような眼差しをしていた。
「俺も、ずっとあいつに悲しい思いをさせてきたんだ。それもちょうど鈴ちゃんと同じくらいの年に。」
「そう…だったんですか。」
意外だった。
この人も完璧に見えるのに、本当はそうじゃないんだ。
「君が美条と長い付き合いだっていうのは、知ってるよ。」
「あ、はい。」
美条(ビジョウ)は、早紀の苗字だ。
父親の秘書なんだから、そこのあたりは知ってるんだろう。
「大学からの付き合いなんです。
お互い束縛しない、そんな関係が楽だった…はずなんですけど…」
「確かにな。
あいつは、一匹狼なとこあるからな。」
「あいつはとにかく完璧なんですよね。
俺がいなくてもやっていける…。」
俺は夜空を見上げ、深く息を吐く。
「佑月くん。」
「あ、はい。」
「鈴ちゃん、いい子だな。」
「…はい。」
不意に話題が鈴ちゃんへと移り変わり、それでも俺はしみじみと頷いた。
「あの子は本当に素直で純粋で…いつまでも俺のことを頼りにしてくれて…」
途中から独り言のようにそう話す俺は、窓ガラス越しにソファーでウトウトする鈴ちゃんを見つめていた。
「俺だって、小さい頃から妹のように側で見守ってきて…いつまでだって守ってやりたいと思うし、笑ってて欲しいって思うんです。」
小さい頃から可愛くて、中学生になったらどんどん綺麗になって…
変な男につかまらないか、ずっと心配で…