私のファーストキスもらって下さい。
(~誠二side~)最後のわがまま
(~誠二side~)
俺は、鈴ちゃんを家まで送るとその足で早紀のマンションへ向かった。
玄関のドアを開けた早紀は、すっぴんでいつもとちょっと違う少し無防備な姿だった。
なんか、すっぴんの早紀見るの久しぶりだな。
そういや、いつからここにもあまり来なくなってたんだろ。
「何となく、来ると思ってた。」
「話があって。」
「入って…」
促され、リビングへ行くとソファーの前のテーブルの上にはいくつかの写真が散らばってあった。
見ると、大学の時の写真。
サークルで遊び回ってた頃の俺ら二人の写真。
「懐かしいでしょ。
片づけてたら、出てきたのよ。」
俺の視線が写真に向いているのに気づいたのか早紀はコーヒーを入れながら、そう言った。
「そんな頃もあったのよね…」
「そうだな。」
写真の中の二人の距離は近かった。
何にも疑問を持たず、お互いにただ好きで一緒にいた。
本当に、今と何が違ったんだろう。
「お酒飲んでたの?」
「あ、ああ。塚本専務のうちにお邪魔してたんだ。」
「へぇ、珍しい。」
「塚本専務の婚約者の瞳さん、鈴ちゃんと仲が良いらしくて。」
鈴ちゃんの名前を出したけど、早紀はただ
“そう”、そう頷いただけだった。
ソファーに座った俺の前にコーヒーを置くと、早紀は隣に座った。
話、切り出さないと…
「あのさ、早紀…」
「この頃、」
俺の言葉を遮った早紀の声は、ひどく柔らかくて…そのまま、俺は黙ってしまった。
「付き合い出して、まだそんなに経ってなかったわよね。…なんか、お互いに好きだけど…友達みたいな感覚で。」
「あー、確かに。そうだったよな。
何してても、ラブラブって雰囲気じゃなかったな。」
当時の二人を思い出して、思わず笑った。
それはそれで、楽しかった。