私のファーストキスもらって下さい。
自分でそんな風に思っておいて、勝手に自己嫌悪に陥る。
胸がズキズキする。
子どもの私には、早紀さんの存在は大きくて眩しすぎる。
「じゃあ、俺らもう行くわ。」
拓さんが話を終わらせて…いや、無理に終わらせて、切り出した。
もしかして拓さん、私に気を使ってくれた?
拓さんの何気ない優しさにちょっと気持ちが軽くなる。
「じゃあ、また店にも顔出しに行きますわ。」
「そーだよ。もうお前の妹見飽きたぜ?」
「はは。あ、拓さん一応言っとくけど、
…鈴ちゃんに変なことしちゃダメですからね。可愛いけど、中学生。」
「わーてるよ。ばか。
俺もそこまで焦ってねーよ。」
心配いらないのに、誠二くんてば。
拓さんはいつも頼れる兄貴なの。
いや、お父さんみたいな感じ。
それから、拓さんとお昼ご飯を食べた。
「ほら、食え。
俺の奢りなんて滅多にねーからな。」
敢えて、さっきの出来事は口にしない拓さん。
だから、私も頑張って気にしないように心掛けた。
きっと拓さんは、ボーッとしてる私に気づいてたと思うんだけと。
そして、車での帰り道。
「…ありがとね、拓さん。」
「あ?………いや、俺は別に。」
「まさか、ばったり会っちゃうなんてねー。
ビックリだよね…」
明るく言ったつもりが…何か最後らへん、不自然な感じになっちゃった。
「………キツいな、お前。」
少し間が空いて…拓さんは呟くようにそう言って私の頭に手を置いた。
その声があまりにも優しかったから…
せっかく張っていた気持ちが緩んでしまった。
「早紀さん…いい人なんだもん……ッ。。」
ここで限界。
ぽろぽろと涙が落ちて、プレゼントの入った紙袋にしみを作っていく……
「嫌いに…なれないよ…あんな人…っ。ぅ。。」
途切れ途切れに振り絞った言葉は、悲しい現実で…
「それは当たり前だろ?…鈴。」
顔をあげると、いつの間にか車はどこかのお店の駐車場だった。
拓さんは、エンジンの切った静かな車内で私に向き合ってこう言った。