私のファーストキスもらって下さい。
さっきまでの幸せ気分も、一気に急降下。
聞かなければいいのにそこから足が動かない。
私は玄関のドアに手をかけたまま、誠二くんの電話が終わるのをただひたすら待っていた。
今にも溢れそうな涙を堪えて…
「あ?俺?…特に変わりないよ。」
きっと、誠二くんのこと心配してるんだ、早紀さん。
優しい彼女。
「今日は鈴ちゃんと買い物行ってた。
…あぁ。分かった。言っとくよ。
てか、お前の妹にするなよ?
鈴ちゃん、俺の妹みたいなもんなんだから。」
早紀さんになに言われたの?
ねぇ、誠二くん。
私、あんまり早紀さんと仲良くできないよ…
嫌いにはなれないけど、
一緒にいるなんてつらいよ。。
「分かったって。…は?…やだよ。いやいや、イブだからじゃないし…
…あーも、1回しか言わないからな。」
困ったような面倒くさそうな誠二くんの声。
きっと、早紀さんのいつもの我が儘かな…
「好きだよ。…愛してる。」
何で今、そんな言葉…
聞きたくないよ。
早紀さん…そんな言葉、言わせないでよ…。
誠二くん、そんな甘い声で言わないでよ。
中学生だって、“愛してる”って言葉がどれくらいの意味か分かるんだよ?
早紀さんがどれだけ我が儘言っても、イブに彼氏ほったらかしにして海外に行ってても…
…誠二くんは、早紀さんが好きなんだよ。
大好きなんだよ…
愛してるんだよ…
私には一生言ってくれない言葉だよ…
我慢していた気持ちが、いっぱいになってしまった涙と共に溢れてしまった。
胸が苦しいよ…
私は、手にした紙袋を抱き締めたまま、しばらくの間…目を固く瞑った。
ほっぺたを伝う涙を一つ一つ感じながら、
私は気持ちをリセットさせていく。
いつの間にか電話が終わっていた誠二くんに不審に思われないように、涙を拭いて笑顔を作ると玄関のドアを開けた。