青の衝動
その日の午前の仕事を終えて、昼休みに入って僕はコンビニへお昼ご飯を買いに行った。
ビニール袋をぶら下げて工場(こうば)に入ろうとした時、背後から声をかけられた。



「昼休みの時間に申し訳ない、上総はいますか?」


老紳士といった感じで、身なりといい漂う雰囲気といい、庶民な僕でもわかるくらいの気品を纏っている。
そして、何故だか少しだけ全身が震えるような錯覚を覚えた。
僕はこの人をどこかで…

「もし?聞こえていますか?」


「あ、はいっ!呼んできますね!」



何なんだろうこのザワザワしたものは、あの人を知っている。


工場奥の事務所へと繋がるインターホンを鳴らすと立体映像が出て親方の形を作る。

「おや、どうしました?」


「親方!お客様が、いらしてます。」



「やぁ、上総。久しぶり」


後ろから親方に向けて老紳士が声をかけた。


親方もなかなかの紳士で、60歳を過ぎているようには到底見えないくて、すごく優しい人だ。いつもほほえんでいるイメージすらある。
もちろん向こうからも此方は見えている。表情を曇らせることはほとんどないのだが、老紳士を見たとたんあからさまに嫌な表情をした。
その表情を見て僕はなぜか、懐かしくて笑ってしまった。


「晴くん、奥へお通ししてください。」


不機嫌そうな声がそう告げると、ぶつりと乱暴にインターホンが切れて、僕はそれを合図にするように老紳士を中へ招いた。
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