シュガー*シガレット*シークレット
「え、せん──、」



先生の顔が近い、と思ったら、もう、くちびるが重なっていた。

握りしめていたハンカチが、驚きのせいであっさり、私の手からこぼれ落ちる。

きっと、くちびるが合わさっていた時間は、5秒くらい。

だけど私の体中の熱をあげてしまうには、十分な時間だった。

ふわりと、タバコのにおいが離れていく。



「っうぇ、なっ、なにをっ、」

「──たとえば、学校の先生とキスしたとか。そんなことの方が、よっぽど、イケナイコトしてる気分になると思うんだけど」

「……ッ!?!?」



にやりと笑って、先生は、私の頬を撫でる。

私はもう、ただただ混乱して、恥ずかしくて。

右手の甲で口元をおさえながら、真っ赤な顔で、先生を見上げていた。



「おら、もうすぐ今の授業終わる時間だろ。次のやつは、ちゃんと出ろよ」

「ちょっ、み、みなみせんせい、」

「あとな、またなんか嫌なことあったら、今度はこんなとこ来るんじゃなくて、数学準備室に来い。話相手ぐらいにはなってやれるから」



言いながらまた私の頭を撫でて、それから、横髪を耳にかけた。

あらわになった左耳に、思いきり、先生はくちびるを寄せる。



「……オメデトウ。これでもう、“イイコの穂積 紗和”じゃなくなったな」

「……ッ、」



そのささやきに、もうこれ以上ないってくらい、顔が熱くなる。

キッと睨みつけると、先生は、なんだか楽しそうに笑っていて。


──何このひと。何なのこのひと!
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