ワインお作りします
別れのワイン
"ワインお作りします"
路地裏にある小さなお店。
その入口にある看板。
きっと普段なら目にも止まらない。
だけど。
今日は何故だか目立って見えた。
ゆっくり扉を開けると、中から葡萄の香り。
ワイン作るところだから当たり前か。
中はおしゃれな喫茶店みたいな雰囲気だった。
「いらっしゃいませ。」
ぼーっとしていた私に優しい声がした。
声の方を見ると、さっきまで人は居なかったカウンターにシャツを着た男性が立っていた。
「あの...ワインって...」
別にワインが欲しい訳じゃなくて入ってきたけれど、咄嗟にそう答えていた。
「はい。作ります。貴女だけの魔法のワインを。」
店員さんはそう言ってニコッと笑った。
「ま、まほう??」
「ええ。」
魔法と言えるくらい美味しいのだろうか。
まだ飲んでないから酔ってはないし...
そもそもいい大人が魔法なんて...
「とりあえず、お掛け下さい。」
そう言って彼は笑った。
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