ワインお作りします
しあわせのワイン
"ワインお作りします"
路地裏にある小さなお店。
その入口にある看板。
お店の雰囲気が昔家族でよく出かけていた喫茶店に似ていた。
「いらっしゃいませ。」
中も喫茶店。
店員さんは男性一人だった。
「こんにちは。」
何となく入ってしまったけど。
ワインは高いだろう。
年金などもほとんどなく、お金もない。
高額なモノなど買えない。
そもそもジジイ一人。
ワインなんて飲みきれない。
「どうぞ、お掛け下さい。」
店員さんは気にせず席を勧める。
戸惑いながらカウンターに座るとサッと珈琲が出てきた。
珈琲から香る香りは昔家で飲んでいたよりとてもいい。
若い時に気に入った喫茶店で飲んでいた香りだった。
とりあえず出された珈琲を飲むと少しホッとした。
「どの瓶がお好きですか?」
ディスプレイでもするのだろう。
彼はニコニコと虹のような7つの瓶を目の前に並べていた。
「そうだな…橙かな。」
私がなくしてしまった家族。
あの暖かさ。
橙に少し、それを感じた。