ワインお作りします
「橙ですね。」
彼は確認すると他の瓶をしまい、橙色の瓶に葡萄を詰め始めた。
「あ、いや、ワインはいいんだ。」
「要りませんか?」
彼は手を止めた。
買う金がない。
いい歳したジジイが言えるわけがない。
「あぁ。要らない。」
「大丈夫です。お代は掛かりませんから。」
彼は私の不安が解ったのか、そう答えて葡萄入れを再開した。
若い奴にバカにされているようで本当なら腹が立つ。
けれど。
彼には不思議と腹が立たなかった。
「では、少しだけこの瓶を回してもらえますか?」
「こうか?」
瓶を受け取って少し回す。
ワインを回すなんて聞いた事もないが。
回し始めると中の葡萄が回った。
しばらくすると売っているような色のワインが出来た。
「ありがとうございます。」
彼は慣れた手際で瓶に蓋をして、紙袋に入れた。
「どうぞ。」
「……。」
本当にくれるんだろうか。
「お代は今、回す時に願っていたあなたの気持ちなのでお金では頂きません。」
彼はそう付け足した。
「そういう事なら…。」
後で多額な額を請求される事はないのだろうか。
不安ながらも受け取る。