ワインお作りします
次の日。
彼は私に小さな箱を寄越した。
「本当は渡したかった。」
そう言ってくれた箱の中身は約束が込められた指輪だった。
「治ったら式挙げよう。」
それは叶わない約束。
だから、現実には貰えなかった約束だった。
その瞬間、世界が不意に揺れた。
*
視界がハッキリするとそこはベッドだった。
「夢…か…。」
覚めないで欲しい夢。
だけど。
少しだけ、心が癒された。
逢いたい人に、願っても逢えない人に、逢えた。
それだけでも私は十分だった。
寝起きに水分を取ろうとして、私は固まった。
枕元にはあったはずのペットボトルはなく、そこに夢の中で貰った小さな箱があった。
何回見ても変わらない。
夢は現実になった。
理由は解らない。
これも夢かもしれない。
だけど。
記憶もあった。
最期まで傍にいれた。
そんなはず無いのに。
手に入れた約束と記憶はまるで魔法みたいだった。
おかげで、心は少し軽くなった気がした。
*
(お姉飲んだかなー?私はどうしよう。)
お姉の部屋から出て来て、ひたすら小瓶と睨めっこ。
どうしても飲んで欲しいのだろうけど、私は忘れたくない。