ワインお作りします


(本人には何一つ伝えられないのに…?)

黒猫は疑問に思う。
けれど、楽しそうな彼に水をさす気もなく、それは黙っている事にした。

「ここに来る前、大切だった人の生まれた日なんです。伝わらなくてもお祝いしたいんです。」

黒猫の気持ちが伝わったのか…
彼は今度は少し寂しそうにそう言った。

祝いたいだけ。
自己満足なのは解っているんだろう。

そんな彼が嫌いじゃない。
だから黒猫は一緒に居た。


料理を全て並べ終えると、彼はケーキにロウソクを立てた。

ケーキの周りに一周。
20本以上あるロウソク。
きっと年齢の数だろう。

そんなにたくさんのロウソクに火を付けたら火事みたいだ。
楽しそうな彼を見て、黒猫はそれもまた黙っている事にした。

真っ暗の中。
彼はロウソクに火をつけて、しばらく見つめ、その後、一気に火を消す。

ロウソクを見つめる間、彼はやっぱり寂しそうだった。

「はい、貴方の分もありますよ。」

ロウソクを消してケーキを切り分ける。
その切り分けから、黒猫の前に一欠片のケーキを置いた。

「ふん。」

黒猫は『当然』と言わんばかりにケーキに口を付ける。
それを見て、彼も嬉しそうにケーキをお皿に取った。


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