ワインお作りします
しばらく黒猫がケーキを食べ進めていると、急に彼は呟いた。
「時々、思うんです。」
「ん??」
「バカな事したかな…と。」
「バカな事?」
不思議そうな黒猫に彼はまた寂しそうな笑顔を向けた。
「どんな事かは内緒です。」
「ふーん。」
納得は行かないものの、詳しく聴く気もない。
黒猫は興味が逸れ、欠伸をした。
食べ終わると彼は片付けをして、ワインの瓶を出した。
「自分の分も作れるのか?」
黒猫は驚いて聞いた。
彼と長くずっと一緒にいる。
けれど、お客さんが来ていないのに彼がワインの棚を開けたのは初めてだった。
「仕事を辞めるまでに一本だけ作れる約束なんです。」
「ふーん。」
「その一本、今でいいのかまだ悩んでますけど。」
彼は苦笑しながら虹色の瓶から色の付いていない瓶を出した。
それもいつものとは違う、初めて見る色の瓶だった。
「それはどういうワインなんだ?」
色の付いていない透明な瓶は黒猫には想像もつかない。
ワインの効果は、いつも彼がお客に話すのを聴いて、なるほど、と思うだけだった。
けれど。
彼が自分の為に選ぶ瓶。
それには興味があった。