ワインお作りします

        *

視界が揺れて気付くと、今逢いたい人の家の前に居た。
よく考えたら休みかどうかも解らないのに。

昔、使っていた携帯を取り出して連絡をする。

〈今、うち?〉

付き合って居た頃はこんな送り方した事がなかった。

《うん。》

数秒待つと返事が届く。

〈外に居る。出てきて。〉

その瞬間、部屋のカーテンが開いた。

彼女の眼は大きく見開かれる。
それはそうだよな…。
俺、もう居ないはずだし。

手を振ると彼女は慌ててカーテンを閉めて下に来た。

「どうして…?」

涙を目に溜めている。
やっぱり好きだと思う。

ずっと会いたかった。

哀しい想いをさせたから忘れて欲しかった。
だけど。
心の何処かで覚えておいて欲しかった。
もう逢えないのに。

けれど。

この仕事に就いた。
だから。
逢えた。
もう逢えないはずだったのに。

「最後に逢いに来た。」

俺の言葉は彼女に届いて。
彼女は俺に飛び込んできた。



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