ワインお作りします


「アレを飲まないとあなたに死が近づく。俺についてる奴が。あなたが死ぬと、あなたをしあわせに出来なかった事になって、俺はココから一生出れなくなるんですよ。」

しばらく雨の音だけが響いた。
雨の音は優しく聞こえる。
最初にココへ来た時にも確か雨が降っていた。



あの偉そうな黒猫が話していたのはこれだったんだ。
本当の事だった。

それに。
好きになった彼はもう居ない人だった。

なんとなく。
好きになっても叶わない事も解ってた。

それでも。

好きになったのに…。

忘れたくない。
けれど、この気持ちは迷惑にしかならない。

だけど………。

「全員に忘れられて、貴方はしあわせになれるの?」

もしも私が忘れてしまえば、きっと、彼は誰の中からも消える。
そう思った。

ワインを飲んだ人はココへ、もう一度来れない。
だから。
彼はずっと独りきり。

「仕方ないんです。」

彼は寂しそうに笑った。

「たくさんの人を不幸せにしたんです。自分だけ、幸せには慣れないんです。」

彼はきっぱり話した。

「それは…!」

「それは違うと思うぞ。」

私の声は別の声に掻き消された。

声の方を見ると黒猫が偉そうに座っていた。

「違う…?」

彼は少し戸惑いを見せた。

「私も違うと思う。」

私の言葉に店員さんも黒猫も、私を見た。

「きっと、たくさんの人をしあわせにして、しあわせを分けて貰って、天国に行くんだと思う。」

今度は邪魔されなかった。
言い切った後、黒猫はやっぱり偉そうな顔をしていた。
店員さんは目を見開いていた。





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