ワインお作りします
「アレを飲まないとあなたに死が近づく。俺についてる奴が。あなたが死ぬと、あなたをしあわせに出来なかった事になって、俺はココから一生出れなくなるんですよ。」
しばらく雨の音だけが響いた。
雨の音は優しく聞こえる。
最初にココへ来た時にも確か雨が降っていた。
*
あの偉そうな黒猫が話していたのはこれだったんだ。
本当の事だった。
それに。
好きになった彼はもう居ない人だった。
なんとなく。
好きになっても叶わない事も解ってた。
それでも。
好きになったのに…。
忘れたくない。
けれど、この気持ちは迷惑にしかならない。
だけど………。
「全員に忘れられて、貴方はしあわせになれるの?」
もしも私が忘れてしまえば、きっと、彼は誰の中からも消える。
そう思った。
ワインを飲んだ人はココへ、もう一度来れない。
だから。
彼はずっと独りきり。
「仕方ないんです。」
彼は寂しそうに笑った。
「たくさんの人を不幸せにしたんです。自分だけ、幸せには慣れないんです。」
彼はきっぱり話した。
「それは…!」
「それは違うと思うぞ。」
私の声は別の声に掻き消された。
声の方を見ると黒猫が偉そうに座っていた。
「違う…?」
彼は少し戸惑いを見せた。
「私も違うと思う。」
私の言葉に店員さんも黒猫も、私を見た。
「きっと、たくさんの人をしあわせにして、しあわせを分けて貰って、天国に行くんだと思う。」
今度は邪魔されなかった。
言い切った後、黒猫はやっぱり偉そうな顔をしていた。
店員さんは目を見開いていた。
*